人文特講(創作表現論) 2006/4/24 「三つ目の願い」

 今回はジョーン・エイキンの短編『心の宝箱にしまう15のファンタジー』(三辺律子訳・竹書房)から「三つ目の願い」をプリントして配って、その場で読んで、書く、という課題。「三つ目の願い」は、「猿の手」などをふくめ、多くの「三つのお願い」物のパロディだが、とてもうまくまとまっている。
 さて、これを読んで書いた学生たちの短編、コント、感想のなかから、いくつか紹介してみよう。
 短時間のうちに書き上げるという制約があるので、誤字脱字、未完など、目をつぶってください。
 ただ、これを読むのは、エイキンの「三つ目の願い」を読んでからにしてほしい。



社会学部 社会学科 1年(SS)

 何をもって幸せとするのかは人それぞれである。別に彼が晩年をハクチョウと一緒に過ごしたキチガイだと言うつもりはない。ただ私は三つ目の願いを使わなかったことが気に入らなかった。彼は妻も子供もいなかった。私は彼の友人として葬式を執り行い、彼の体は森の川辺に埋めた。二羽のハクチョウが彼の墓の近くにいつもいたが、それも時が経つにつれて見なくなった。さて、私の手元には一枚の枯れた葉がある。かって彼は私に漏らしたことがあった。この葉は願いを叶えてくれると。枯れてはいるが、使えないわけではなかろう、と私は考えている。もっとも一つしかないのだ、ヘタに使って大事になるのはゴメンだ。私は大事にそれを取っておいた。
私は年を取り、死期も近くなった。体も動きにくい。妻も子供も次第に私に対して冷たくなっていった。私はそれを責めるつもりはない。私とてモーロクした親や祖父母には冷たく当たってきた。だがいざ同じ立場になるとそれはこの上なく寂しいものであった。
そんな中、私はカゼをひいた。高熱で朦朧とする。だが妻も子も私を助けてはくれなかった。私もかって葉の魔力を彼らに語ったことがあった。もっとも在り処までは語らなかったが。ヤツらは私が死ぬのを待っている。そんな風に思えてきた。考えてみれば、私の人生は幸せだったかどうか分からない。適当に仕事をこなし、適当な女と結ばれ、子供を適当にしつけてきた。すべてありきたりだ。彼の人生も似たようなものだったのかもしれないが、死に顔を見るに素晴らしい人生であったように思える。
 私は急に世の中が憎たらしくなった。大半の人間はつまらない日常を過ごし、くだらない事で笑う。実に情けない。他人の芝生は青く見えるそうだが、私はそれを考慮しても幸せではなかったと思う。一部の人間だけが幸せを受け、大半はつまらない日常。私は怒りがこみ上げてきた。隠してあった葉を取り出し、私は願った。世界中の幸せな人間を殺してくれ、と。葉はボロボロと崩れ落ちた。今思えば浅はかな願いだったかもしれない。
 私はテレビをつけた。どんな人間が死んだか知りたかった。しかし、誰も死んでいる様子はない。生放送なのにだ。私は少し冷静になった。他人の芝生は青く見える。そうかもしれない。よく考えれば、何が幸せかなど人によるのだ。そう思うと私の願いは叶えられなくて当たり前だと思った。何だかとても幸せになってきた。こうしてみると、小さな事のようだ。私は幸せに包まれた。全てから開放されたようだった。
 どうやらその時私は死んでいたらしい。後で考えれば生きるという事そのものはひどく苦痛であり、死こそ幸せなのだろうとも思えた。残された家族は葉のことでひどい言い争いをしている。彼らが幸せになるのはまだ先のようだ。


現代福祉学部 2年(YM)

 私は4人家族だ。飲んだくれている父と、妹と弟。そし私には好きな人がいる。その人の名前はピータース。私はまだ17歳だけれど彼のことを愛している。けれど彼は私のことを近所の子供だとおもっている。ただの子供。ある日、彼は一人のきれいな女性と結婚した。悔しかった。勇気を振り絞って思いを伝えることができなかった私自身が情けなかった。
 それから彼は幸せそうだった。私は幸せではなかった。何だか納得がいかなかった。私はよく教会に行ってお祈りをするけれど、神様の声が聞こえたことなんて一度もない。私は神様を信じている。それなのに何故、神様は私を幸せにしてくれないのだろう。
 彼の表情が暗くなった。私はチャンスだと思った。彼の妻が突然いなくなったから。私は彼に近づいた。優しいピータースは私を娘のように扱った。本当は恋人同士になりたかったのだけれど、私は満足だった。ピータースは変わった。四六時中白鳥と共にいて、仕事をこなす。時折、彼の隣に寄り添っている金の鎖をつけた白鳥が私のことを見つめている。その目つきは厳しくもあり、優しくもあり、私を安心させた。ある秋の日、ピータースが言った。「今までこんな年寄りの側にいてくれてありがとう」と。私は笑って言った。「また明日も来ますよ」と。私はピータースの家の扉を閉めた。2羽の白鳥が私を見た。2羽ともとても悲しそうな瞳をしていた。私が歩き出すと、白鳥たちは歌い出した。その歌のメロディーは、今も私の心の中で響いている。消えることはないだろう。翌朝、彼の家を訪れた。彼は眠っていた。幸せそうな微笑みを浮かべていた。
 彼が胸の上で組んだ手にあった一枚の真っ白い羽を私の手に取り、窓を開けて空を見た。そっと見上げた青空は、何だか無性に悲しかった――。
 2006年の初夏、家の中を掃除した時に見つけた古い日記にこんなことが書かれてあった。これは誰の日記だろう? 日付もかなり古いものだ。明日、友達に見せて話をしてみよう。


社会学部 メディア社会学科 1年(TK)

「レイタ、やっぱりやっぱりまだピータースさんのこと忘れられないの?」
「姉さん‥‥。やっぱり私、顔に出ちゃうタイプだね。」レイタは悲しそうに笑った。ピータース氏が死んでから一年が過ぎた。彼の墓の前には枯れた葉と真っ白い羽が、小箱に入れられて、供えられていた。ピータース氏の亡骸を発見した村人が「こんなにしっかりと握っていたのだから、大事な物に違いない」と思い、そうしたのだった。
 レイタと姉は、よくピータース氏の墓に来ていた。時々、墓を荒らしていると思われ、村人に追いかけられるのを、レイタは悲しく切なく思っていた。
「姉さん。姉さんもあの枯葉のこと知ってるよね?」レイタは突然、そう言った。「知ってるけど‥‥まさかレイタ‥‥」姉の不安は当たった。「ピータースさんを生き返らせるの。」レイタは今までにないほど、口調が強くなった。「ダメよ。きっと生き返っても骨だけしかないのよ?」姉も釣られて口調が強くなった。「平気よ。だって私とピータースさんは姿が違っていても愛し合えたのよ? なら、ピータースさんが骨だけであろうと愛せるわ。」いつの間のか、2羽の白鳥は大粒の涙を流していた。しばらく2羽がなき続けていると、姉がふと泣くのを止めた。そして妹をさとすように言った。「ピータースさんはね、あと一つ願いが叶うのに死んだのよ? あなたともっと一緒にいたいと願うことだってできた。けど、彼はしなかった。ね? わかるわよね?」「姉さん‥‥」
「悲しんでたら彼も悲しむわ。元気に生きていきましょ。」「‥‥うん。姉さん、ありがとう。」
「レイタ、あとこれはどうしても言っておきたいの。」姉の悲しそうな顔にレイタは不安を覚えた。
「ピータースさんが握ってた羽‥‥あれ私の羽なの。」


社会学部 メディア社会学科 1年(SM)

 目を覚ましたピータース氏は、まるで夢の中にいるような気分でした。年老いて、鉛のように重かった身体は、ふわりと軽く、どこまでも歩いてゆけそうでした。美しい緑に囲まれて、一本の小道がありました。ピータース氏はその小道を歩きました。長い長い一本道でした。毎朝聞いていたのと同じように鳥たちのさえずりが聞こえました。どれ位歩いたのでしょう。遠くに何かが見えました。どこまでも続きそうな緑の風景の中に一際あざやかな赤。それは野ばらのアーチでした。小ぶりの真っ赤な無数のばら。ピータース氏は近寄って、そのアーチを見つめました。3メートルほどの大きなアーチの上の方に、大きなクモの巣がかかっていて、そこには、かわいそうに一羽の蝶がつかまっていました。ピータース氏はその蝶を助けようと手をのばしました。が、届きませんでした。この蝶はこのままクモに食われるのを待つしかないのでしょう。ですが、ピータース氏にはどうすることも出来ませんでした。仕方なくそのままアーチを潜り抜けようとしました。アーチの向こう側にも同じような緑の風景が広がっていました。一体どこまでこの小道は続いているんだろう。そう思い、アーチの向こう側へ一歩踏み出した時でした。「その葉を持って、あっちには行けないよ」突然、声が聞こえました。驚いて辺りを見渡すと、ピータース氏のすぐ頭上を小鳥が飛んでいました。どうやら、さっきの声はこの小鳥のもののようです。「葉? そんなもの、持っていないよ」ピータース氏はそう言って、ぎょっとしました。さっきまでは何も持っていなかったはずなのに、今、その手には、あの葉を握っているのです。「もう必要ないから、捨てていくよ」ピータース氏は小鳥に向かって言いました。ところが小鳥は「それは捨てることはできないよ。さぁ、何か一つ願いごとを」ピータース氏は悩みました。悩みながら空を仰ぐと、そこには、クモの巣にかかった蝶がいました。「では、あの蝶を助けてやって欲しい」ピータース氏がそう言うと、野ばらのアーチにかかっていたはずのクモの巣は、一瞬にして消えてしまいました。自由になった蝶は、ヒラヒラとピータース氏の周りを飛びまわり、やがて大空へ向かって飛んで行きました。ピータース氏は、それを穏やかな表情で見つめていました。そして、手の中から葉がなくなったことを確認して、再び一歩を踏み出しました。と、その時でした。「ちょいと、お待ち」その声に振り向くと、そこには小人が居ました。緑色の服に金の冠をかぶった小人でした。


(SS)

 オレの名はジャッキー。この辺りでは知らぬ者はいないスゴ腕のドロボウだ。オレに目をつけられて盗まれなかった物はない。‥‥と思っていた。あのクソ忌々しい事件さえなければ。
 さて、話は1週間前にさかのぼる。オレは夜道をスキップしつつ全力で走っていた。バカなサツどもがてんてこまいしてるのを見ながら逃げる!! この瞬間がたまんねえ。これだからドロボーはやめられねえゼ。ほくそ笑みつつアジトに到着。今日のオレの素晴らしかった所と、反省すべき点を頭に思い描きながらパクった品を隠す。こうやって反省するのがオレがスゴ腕な理由だ。そこへドロボー友達のチェンが入ってきた。「よぉジャッキー。今日もやったじゃねーか。」「おう、チェン。こいつはチョロかったぜー。なんせ‥‥」ひとしきりさっきの華麗なる手際を語り終えると、チェンは「なぁジャッキー。実はすげぇネタを持ってきたんだ。組まねぇか。」と言い出した。チェンによればピータースとかいう白鳥と会話する男が(頭オカしいんじゃねぇか)いて、そいつの家には森に埋もれていたお宝があるとかいうアホくさい話だった。「アホか。」オレは鼻で笑った。だがチェンは、「ウソじゃねぇ。実際ピータースの白鳥は金の鎖をつけてる。」オレの頭は急に方向転換した。白鳥なぞに金の鎖をやるバカはいねぇ。しかし本当なら超金持ちだ。オレは答えた「よし、のった。」
 そして今オレとチェンはピータースの家をうかがっている。が。ピータースの家はどう明るく考えてもふっっつーの家だ。おまけにセキュリティもなってねぇ。ただの窓、ただのドア‥‥これじゃあお宝の話も疑わしくなってくる。だがチェンはもうノリノリだ。オレはため息をつき、打ち合わせどおりピータース家に入るべく行動を開始した。オレはいつもの通りの華麗なるピッキングで10秒後にはピータースの家の中にいた。オレの管轄は一階。ヤツは二階だ。オレは日本の忍者のように静かにすべるように、かつ隈なく一階を捜索した。とりあえず金はあった。だがお宝がない。オレが引き出しのウラまで見ようとしたその時、ブキミなカゲがすっと後ろを通った。オレはさっとふり返り


社会学部 政策学科 2年(KU)

 私の妹は人間になった。そして人間と結婚した。森の王の使いの命によるのだから仕方ない。心配しなくていい、と妹は言った。会いに行くから。何も心配することはない、と。
 妹はうまくやっているようだった。優しい夫にも恵まれたようだ。表情で分かる。言葉ではもう伝えることができないから。妹が人間になってから日が経ち、次第に表情に寂しさがふと表れるようになった。笑顔の奥に表れる寂しさ。それからまた日が経ち、寂しさから悲痛の表情に変わっていった。もう我慢の限界に達しているようだった。そんな妹を見るのが、とても辛かった。
 ある日、妹が帰ってきた。白鳥の姿に戻って私の元へ来た。私は夜、ピータース氏の部屋から一枚の枯葉をこっそりと抜き出した。「私と妹と、ピータース氏の三人で、いつまでも幸せに暮らせますように。」代わりの枯葉を一枚置いて、そのまま部屋を出た。


社会学部 メディア社会学科 1年(KS)

 ベッドの上でやすらかに息をひきとったピータースを見つけた隣人のセバスチャンはとても腹黒い男だった。小人がピータースに何やら葉っぱのようなものを渡したこと、それによって願いごとが叶ったこと、などなど、全て家の物陰から見ていた。一度、その願いごとが叶う葉っぱを盗みに行ったことがあるが、二羽の巨大な白鳥に襲われて、そのまま連れ去られ、川に落とされたという経験があったため、なかなか葉っぱを盗むことができなかった。ピータースの庭に罠を仕掛け、ピータースを転ばせてリューマチにさせてみても、いつも隣に白鳥がいるので、盗むチャンスもない。
 ある日、セバスチャンはピータースに尋ねた。「どうして新しい奥さんを願わないのです?」と。するとピータースは「もう二つの願いで充分です。」と穏やかに答えた。これを聞いたセバスチャンは内心喜んだ。ピータースは三つ目のお願いをする気はない。別に盗まなくても、年寄りのピータースがくたばるのを待てばいい。スキップして家に帰っていくセバスチャンを見て、ピータースは首をかしげた。
 月日は流れ、ある秋の夜、ハクチョウの歌うメロディーにセバスチャンは目を覚ました。「あぁ、うるさい。一晩中、歌いやがって! 明日、朝一で文句言いに行ってやる。」そして翌朝、セバスチャンがピータースの家を訪ねると、ピータースがこの上なく幸せそうな微笑みを浮かべ、ベッドの上で安らかに息をひきとっていた。そして胸の上に組んだ手の中には、白い葉っぱが握られていた。セバスチャンはほくそ笑んで白い葉っぱを手に取り、お願いをした。しかし、一時間経っても一日経っても何も起こらない。とうとうセバスチャンは願いごとを諦めた。
 本当は白い葉っぱは白鳥の羽で、その側にあった枯葉が願いを叶える葉っぱだったのに。セバスチャンには内緒にしておきましょう。


社会学部 メディア社会学科 1年(YA)
 ある日の夜、白鳥のレイタは森の王からの呼び出しをうけた。何か重大な話だというので、姉のレアと共に王の元へ参上しました。王が言うには「私は不覚にもイバラにひっかかり動けなくなってしまった。更に不覚なことには、人間に助けられてしまったのだ。そしてその人間に褒美として三つの願いを叶えると約束した。」姉のレアは、「はぁ、こんな人が王サマでこの森大丈夫かしら」と、内心呆れかえっていたが、レイタは「まぁ、そうだったのですか大変でしたね」と素直に話を聞いている。「それでだなレイタ、今日お前を呼び出したのは他でもない。その願いについてだ」と王は言いました。レアとレイタは共に首をかしげ「どういうことでしょう?」と王に尋ねた。「うむ、その人間の一つ目の願いは、『森のように美しい妻が欲しい』ということだ、そこでレイタ、この森で最も美しいお前にその人間の妻になってほしい」「ええっ」と驚きの声を上げたのはレアのほうでした。レイタの方はと言えば「はい、分かりました」とやはり素直に返事をしたのでした。レアは「そ、そんなの無理に決まってるじゃないですか。いくら人の姿になるとはいっても‥‥。それに、もしその人間がヒドイ奴でレイタを苛めたりするかもしれないじゃないですか」と抗議するが、レイタが「落ち着いて姉さん、そもそもそんなヒドイ人なら白鳥の姿の王様を助けたりしないでしょう?」と少々エキサイトしている姉をなだめすかし、王様も「うむ、それに古より三つの願いをうまく使えた人間はおらん。そんなに心配せずとも元通りになると私は踏んでいる」と言いました。レアはまだ少々納得いきかねる様子でしたが、それを口には出さず、其の夜はそれまで、ということになりました。そして翌朝


社会学部 社会学科 4年(YK)

 橙色の服を着た小人が、切り株の上に立ち「ウオッホン!」とえらそうにせきをした。
「議題は“3つの願い”の掟を、継続するか廃止するかについて‥‥でよろしいですな?」
よろしいですな、という言葉は一番大きな切り株に座る緑色の服に金の冠をかぶった一番えらそうな小人に向けられた。
「かってにせい」
足をぶらぶらさせ、緑の服の小人はそっぽを向いた。
「廃止するのがいいと思います!」
草の上に座っていた黄色服の小人が、手を上げながらジャンプした。
「最近はもう、人間たちにも“3つの願い”は災いを呼ぶって評判がたってるんです!こないだおいらが人間の家でねずみとりにひっかかっても!妖精は災いを呼ぶから助けるなって、使用人たちが言い合ってて!3日間そのままだったんですよ!妖精全体の評判を下げるし!止めたほうがいいと思います!」
「妖精が災いを呼ぶだって!?」
顔を真っ赤にして、赤い服を着た小人が反論した。
「災いを呼んでるのは、いつも人間自身じゃないか!人間が下手な願いごとをしなければ、災いなんておこらないさ!」
藍色の服を着た妖精は同意した。
「3つの願い……


現代福祉 2年(KW)

 僕は愛犬ポチと、近所の浜辺を散歩していた。朝日が、海を夕暮れの赤に染めていた。僕らの他に人はいない。ポチの白い毛が、潮風にゆれた。
「ほらポチ!とってこい!」フリスビーを投げて、僕は叫んだ。
 円盤は海の方へ飛んでいき、やがて水面に落下した。それでも、ポチはじゃばじゃばと海の中に向かっていった。さすがに我が愛犬。主人には絶対服従だ。「とってこい」と言えば地の果てまで走っていくだろう。そういう風にしつけたのだから。数分後、ポチが戻ってきた。が、くわえているのはフリスビーではなく、直径10センチほどの海がめだった。
「これはフリスビーじゃないだろ‥‥」そう言って、僕はカメを海に帰してやった。と、その時。背後に何かの気配を感じ、振り返った。そこには青いトレーナーを着て無精ひげを生やした中年の男がつっ立っていた。驚いて、砂浜にしりもちをついた。
「‥‥ど、どなたですか」
「あんた。知ってたんだろう。あのカメがこの浜の殿様だってことを」
「‥‥え?」
「海の王を救ったんだから、すばらしいほうびがもらえるとでも思ってるんだろう」
‥‥ん、どこかで聞いた話だぞ。‥‥ああ、大学の授業で読んだ作品だ。と言うことは、僕にはほうびがもらえるはずだ。なんてツイてるんだろう!
「じゃあ、3つの願いを叶えてくれよ」
「‥‥ふっ」
 鼻で笑われた。
 結局、僕は3つの願いを叶える権利を手に入れた。
「まずは‥‥、彼女が欲しい」
 実は生まれて19年間、彼女イナイ暦19年の僕。一つ目の願いはもちろんこれだ。
「私があなたの彼女になるんですか?」
「うわっ、展開はやっ」
 僕の横に、すっごく色白の女の子が立っていた。
「そうだよ」前にどこかで出会っていたかのような、何か運命的なものを感じた。彼女を目の前にして、ほほがかっと熱くなった。これが恋ってやつなんだろうか。
「でも、私、行かなくちゃ」
「今来たばかりなのに、いったいどこへ行くっていうのさ!」
「‥‥フリスビー。探しに行かなきゃならないの」
 そして彼女は、‥‥いやポチは行ってしまった。
「ポチって、メスだったのか」


 copyright © 2006 Mizuhito Kanehara

 last updated 2006/5/29