管理者:金原瑞人

書名 Pagans (仮訳題 『妖精たちのいるところ』)
ISBN 0 439 01469 7
出版社名 Scholastic Ltd (Scholastic Children's Books)
出版年 2000年
ページ数 123ページ
使用した原書の種類 ペーパーバック
著者名 Susan Gates スーザン・ゲイツ

本書の概要 1907年、イギリスの親戚の屋敷に住むことになったアフリカ育ちの少女は、妖精の姫を自称するエキセントリックなメイドにふりまわされながらも、次第に、イギリスの文化や社会になじんでいく。だが、成長と適応の背後には失われていくものもある。軽快な作風の中に、ほろ苦い後味をかすかに感じさせる作品。

主な登場人物
アリス   宣教師の娘としてアフリカで育った14歳の少女。
ベッシー  アリスが世話になっている屋敷の下働きの少女。猟場番の娘。
リチャード 医師の息子。写真をとるのが趣味。

あらすじ
 アフリカ育ちのアリスが、イギリスで教育を受けるために、この屋敷に来て三週間になる。この屋敷の女主人はアリスの母の妹で、富裕な軍人と結婚している。夫、つまりアリスのおじはインドに駐在中で、おばは三日前に男の子を生んだばかりだ。
 アリスは貧しい宣教師の子として、アフリカ人の子どもに混じって育ち、白人社会とはほとんど接触がなかった。イギリスの生活はアリスが知らないルールでいっぱいだ。初めて会ったおばは、幸い優しい人だったが、女のコックと女中頭は、アリスが何かしたり、言ったりするたびに口うるさく注意する。アリスはすっかり萎縮して、「だんまりやのお嬢さん」と呼ばれるようになってしまった。
 イギリスの寒さも骨身にこたえる。これが「春」だなんて信じられない。アリスは寒くても、暖炉のそばによれない。火がこわいのだ。アフリカで住んでいた小屋の中には、煮炊きするための火が焚かれていた。アリスはよちよち歩きのころ、後ろ向きに、その火の中に倒れて、背中に大やけどを負った。そのときの苦痛と恐怖が今も忘れられない。やけどのあとは醜く残っていて、ときどき痛がゆくなる。アフリカの村には同じようにやけどをした子がたくさんいたので、気にならなかったが、イギリスに来てみると、おばや、おばの雑誌に載っている女の人たちは輝くようなピンクの肌をしていた。アリスはひけめを感じ、誰にもやけどを見られないように、細心の注意を払っている。
 お湯のパイプがめぐらしてある暖かいリネンルーム(洗濯物乾燥仕上げ室)は、アリスのお気に入りの隠れ場所だ。体を温めるためにその部屋にはいろうとしたとき、閉じたドアの内側から、女中頭が誰かを叱りつける声が聞こえてきた。「ゼリー型を磨く仕事をさぼって、こんなところで何をしているの」寒くてたまらないから体を温めていたの、と哀れっぽい声が言い訳をした。 「そういえば、ゼリー型がまたひとつなくなった」という女中頭に、その声は「ペイガンたちです。ペイガンが借りていったんです。前のやかんと同じように……」と答えた。ペイガンって何者だろう、とアリスは思った。「また、ペイガンかい。おまえは頭をお医者さんに診てもらったほうがいいよ」 女中頭の口汚い小言に、アリスはいたたまれなくなって、立ち去った。
 その日の午後、自分の部屋にいたとき、何かしきりに訴えるような声が、外からかすかに聞こえてきた。窓をあけて外を見ると、うっすらと霧がかかっている。同じ声が、こんどははっきりと聞こえた。「入れてよ。ねえ、入れてよ。お願いだから……」。女中頭に叱られていた声だ。
 アリスは急いで外に出た。さっきの声は泣き声になっていた。声を追っていくと、池のそばに出た。塚があって、やせこけた女の子がその塚にしがみついていた。その塚には、子どもがやっと通れるくらいの扉がうめこまれていて、南京錠がかかっている。アリスが声をかけると、女の子は涙に濡れた顔でふりかえった。しなびたリンゴのような奇妙な顔つきだ。「この中に、ペイガンたちの地下の王国があるのに、意地悪して、あたしを入れてくれないの。聞こえているくせに」と女の子は言った。「錠前がかかっているじゃない」と言うと、女の子は「そんなこと関係ないわ。ペイガンたちはふしぎな力をもっているのだもの」と答えた。そのとき、館の方から「ベッシー、ベッシー」と呼ぶ女中頭の声がした。「あたしを呼んでいるのよ。いやな女。あたしがペイガンの国にもどって、ふしぎな力をとりもどしたら、あいつを、カブトムシに変えてやる」 そう言うと、ベッシーは風のように姿を消した。アリスはあっけにとられた。なんて奇妙な子だろう。
 そのあと、アリスは森の中にはいっていった。かさっと音がして、見ると、樹皮に二つの目が光っている。(この樹には目がある。邪悪な霊がとりついているんだわ。子どもをつかまえる恐ろしい樹だ……)。だが、よく見ると、その樹はノーフォークジャケットを着て、ニッカーボッカーをはいていた。「こわがらせてごめんね」 彼はそう言って樹皮のお面をとった。
 それがリチャードとの出会いだった。リチャードは、アリスのおばと赤ん坊のために往診に来ている医師の息子だ。写真を撮るのが好きで、樹に砂糖水を塗って、小鳥をひきよせ、撮影しているのだと言う。リチャードのカメラは最新式で、シャッターを下ろすときに音がしないので、小鳥に気づかれずに撮影できるのだそうだ。樹皮のお面も小鳥に気づかれないためだ。
 そこへベッシーが通りかかった。ベッシーは写真の道具を武器と勘違いして、「ペイガンたちを撃たないで」と血相を変えた。リチャードは、これはおまえの大事なペイガンを撃つものではなくて写真を撮るものだと説明した。すると、ベッシーはリチャードがペイガンの写真を撮るのだと早合点して、大喜びし、ペイガンの写真ができたら、ぜひ見せてほしい、と言った。
 館に帰って、アリスはコックにペイガンのことを尋ねた。コックは「ベッシーにくだらないことを吹き込まれたんですね。まったく奥様は、なんであんな子をかわいがりなさるのかね」と言いながらも教えてくれた。ペイガンというのは、この地方に住むと言い伝えられている妖精の呼び名で、ベッシーは、自分はペイガンの「取り替え子」だと信じているのだという。妖精は生まれたての人間の赤ん坊を盗むときに、代わりに自分の子どもを置いていくといわれる。その置いていかれた妖精の子どもが「取り替え子」なのだ。
 次の日、ベッシーは屋敷に来ていなかった。アリスはベッシーの家を訪ねてみた。それは貧しげなだけでなく、ひどく醜く、陰鬱な家だった。近くの樹には、猟場を荒らす動物たちの死体が吊されていた。猟場番であるベッシーの父が、見せしめのためにしたことだ。
 アリスはベッシーと話をして、彼女が自分の家や家族をひどく嫌っていることを知った。「ペイガンの姫がこんなひどいところに住まなきゃいけないなんて、とんでもないことだわ。そろそろペイガンたちがあたしを迎えに来てくれてもいいころなのに」とベッシーは言う。ペイガンたちは人間よりずっと小さくて、美しい着物を着て、毎日パーティーを開いて遊び暮らしているのだそうだ。ベッシーも、ペイガンの世界に帰ったら、本来の美しい姿にもどれるのだという。
 アフリカで育ったアリスには、超自然的な話をごくふつうに受け入れる下地があったので、アリスはすぐにベッシーの話を信じた。そして、場違いなところにいる、という感じは、今のアリス自身に共通することだったから、ベッシーのつらさがよくわかり、深く同情した。そして、ペイガンがどうして、ベッシーの願いを聞き入れて連れ戻しに来てやらないのかと、腹を立てた。ベッシーはこんなにペイガンたちを恋しがっているのに、その姿を見たことさえないのだ。
「あたしが赤ん坊のときにパパとママが火の中にほうりこんでくれたらよかったのに」と、ベッシーは言い、アリスを驚かせた。「昔はそうしたのよ。お母さんが、この赤ん坊はうちの子じゃない、妖精の取り替え子だと思ったら、暖炉の火の中に放りこむの。取り替え子はやけどなんかしないわ。飛び立って、煙突から出て、自由になるの。妖精の国に帰るのよ」「もし、取り替え子じゃなかったら……」とアリスが言うと、ベッシーはきっぱりと言った。「取り替え子っていうのは見まちがえようがないの。あたしのように小さくて、しわくちゃな顔をしていて、日にかざしたら透けて見えるほど皮膚が薄いのよ。そして、赤ん坊のときは泣いてばかりいるの」「そう言えば、今度生まれた赤ちゃんも泣いてばかりいるわ」「ウィリアム坊ちゃんね。どんな顔をしているの?」「おサルの赤ちゃんみたいにしわくちゃよ」「もし、日にかざしてみて透けてみえたら……」と、ベッシーは小声で言った。
 ベッシーと別れたあと、アリスは森で写真をとっているリチャードに出会った。アリスはぜひ、ペイガンの写真を撮ってベッシーに見せてやってほしいと頼んだ。リチャードはその日の午後、自分のうちに来るように言った。アリスはベッシーに「写真をもらってきてあげるから、夕方、ペイガンの塚で待っていて」と告げた。
 アリスが訪ねたとき、リチャードはちょうど現像の途中だった。できあがった写真には、美しい女のペイガンがはっきりと写っていた。そのペイガンは、砂糖を塗った樹に薄もののドレスがひっついてしまったらしく、逃れようとして、両腕を前に差し出している。アリスは大喜びで写真を受け取った。だが、屋敷に帰る途中で考えが変わった。もし、これをベッシーに見せたら、ペイガンの国を恋い慕う気持がいっそうつのるだろう。それではかえってかわいそうだ。それより、なんとか、ペイガンに、ベッシーを受け入れさせる方法はないだろうか。アリスはベッシーとの待ち合わせ場所に行くのをやめた。
 アリスはアフリカで、人間が精霊や魔女と対等に渡り合う話をよく耳にした。そういう連中を相手にするときは、ベッシーのように下手に出るのは禁物だ。弱点をつかんで強気でいくべきだ。アリスはコックに、ペイガンの弱点を尋ねた。コックの話では、塩と鉄には、ペイガンの魔力を封じる力があると伝えられているという。また、コートを裏返しに着ると、ペイガンから身を守ることができるそうだ。
 その夜、アリスは台所に忍び込んで、裏返しに着たコートのポケットに塩を入れ、鉄のフライパンを持ち出した。そして、あの塚に行き、鉄のフライパンをうちつけ、写真をかかげてペイガンたちを脅した。「ベッシーをちゃんと迎え入れてあげなさい。さもないと、この写真をベッシーに渡すわよ。きっとあの子は大喜びでみんなに見せて回るわ。そしたら、カメラマンや新聞記者がわんさか押し寄せて、あんたたちの王国はめちゃくちゃになってしまうわよ。それがいやだったら、ベッシーに親切にしなさい」
 屋敷に帰ろうとして道に迷ったアリスは、リチャードの写真に写っていたペイガンの女性にでくわした。彼女は写真と同じポーズをとっていたが、人間と同じくらいの大きさで硬くて冷たかった−−石像だったのだ。そこへ、蛾の写真をとりに、リチャードが姿を現した。リチャードはあの写真は、砂糖の樹とこの石像を合成した偽物だと、アリスに打ち明けた。リチャードは、アリスがペイガンの存在を信じているとは思わず、ベッシーをからかうために偽物の写真を作ってもらいたがっているのだと思っていたが、写真を現像したあたりから、アリスが本気だということに気づいたのだという。
怒るアリスに、リチャードは「そう言えば、さっきベッシーを見かけた。ウィリアムのためにがんばらなきゃ、とかなんとか、つぶやいていたよ」と言った。アリスは顔色を変えた。まさか……。ペイガンの世界に帰れず、約束の写真ももらえず、絶望したベッシーが、ウィリアムに自分と同じ苦しみを味わわせまいと、火の中に投じるのでは……。「たいへんだわ。ベッシーを見つけなきゃ。そして、あの子に『ペイガンなんかいない。取り替え子なんてうそっぱちだ』って教えてやらなきゃ」 そう叫ぶと、アリスは走り去った。
 リチャードはあっけにとられたが、とにかく自分もベッシーを探そうと、ベッシーの家に行った。窓からベッシーの部屋を覗いたが、いなかった。だが、そのとき、きらりと光るものが目にはいった。ペイガンたちが借りていったとベッシーが言うゼリー型とやかんに違いない。ベッシーはペイガンの存在を信じていないのだ。わけのわからないまま、リチャードは屋敷に走った。彼はふと思いついて、コックに、塚の扉の鍵はどこにあるかと尋ねた。リチャードはあの塚の内部が、かつては氷室として使われていたことを知っていた。返事は意外だった。不要なものだから、ベッシーにやったというのだ。
一方、アリスは子ども部屋の暖炉のそばに、ベッシーがたったひとりで、赤ん坊を抱いて立っているのを見つけた。アリスは火に対する恐怖からパニックを起こしそうになるのをこらえて、懸命に話しかけた。「赤ちゃんをこちらにちょうだい。ベッシー。よく聞いてね。ペイガンは存在しないのよ」 ベッシーは無表情のまま、赤ん坊をいっそうしっかりと抱きしめた。アリスは服のボタンをはずして、ベッシーに背中を見せた。「ほら見て。わたし、小さいときに火の中に倒れこんだの。すごく痛くてすごく怖かったわ。だから……やっちゃだめ」アリスは服を直し、再び、ベッシーに向き直った。「ね、わかって。ペイガンなんて存在しないのよ」 声がした。「そんなこと、ベッシーは知ってるよ」 リチャードだった。ベッシーはびくっとして、赤ん坊をベビーベッドに置いた。そして、ふたりの方を向いて胸を張った。「あたしが赤ちゃんを傷つけるはずがないでしょ。乳母の代わりに、面倒を見ていただけなのよ。そうしてもいいと言われたから。あたし、赤ちゃんの世話は得意なの」
 リチャードはゼリー型とやかんと鍵のことを話した。「ベッシー、エプロンのポケットの中にあるものを出してごらん」 ベッシーはしぶしぶ大きな鍵を取り出した。ベッシーが、ペイガンの存在を信じていないことを知って、アリスはショックを受けた。ベッシーは平然と言った。 「『ペイガンのお姫様ごっこ』をしていただけよ。別に法律違反じゃないでしょ」 アリスの目から涙があふれた。 「わたしにはほんとうのことを言ってほしかった……」 「どうして泣いているの?」 ベッシーは本心から心配しているようすで尋ねた。
「あんたは……」 アリスがつかみかかろうとしたとき、ドアがあいて、おばがはいってきた。「あら、アリスにリチャード。赤ちゃんに会いにきてくれたのね。ベッシーがほんとによく面倒を見てくれるので助かるわ。ねえベッシー、あしたから、もうゼリー型磨きなんかしなくていいわ。乳母の助手になってね」
 おばが赤ん坊を抱いて自室に戻ったあと、アリスはベッシーをひったてるようにして、塚へ行き、扉をあけさせた。中は空っぽだった。「ベッシー、何が見える?」 そのとき、ふてくされていたベッシーの目に輝きが戻った。「クリスタルの尖塔がちらりと見えたわ」「ベッシー、いいかげんにしてよ!」 ベッシーは言葉を続けた。「ほかの人には平凡な池にしか見えなくても、あたしには宮殿が見える。ほかの人には豆にしか見えなくても、あたしには金貨が見える。ほかの人にはぼろにしか見えなくても、あたしには美しいドレスが見える……」
 次の日、アリスはベッシーと仲直りをした。もう、ベッシーのことを怒ってはいなかった。ベッシーの将来に何が待ち受けているかはわからないけれど、きっと、ベッシーは一生、空想と現実の世界を行ったり来たりして過ごすのだろう。それがベッシーの生き方なのだ。
 アリスは森でリチャードに会った。アリスは、ベッシーに背中を見せたときに、リチャードにも見られたかどうか、ずっと気になっていた。だが、彼の態度が全く変わっていないので、見なかったのだろうと思った。おしゃべりをしているうちに、背中のやけどのあとがかゆくなってきて、こっそり、樹にこすりつけていると、リチャードが「傷あとがかゆいの?」とさらっときいた。絶句するアリスに、リチャードは言った。「あれよりずっとひどいのを見たことがあるよ。医者の息子だからね。きみのはきれいに治ってるよ」 そして、すぐにほかの話題に移った。リチャードはとりわけアフリカの動物の話を聞きたがった。アリスはリチャードがやけどのあとのことを何とも思っていないのが嬉しかった。
 館に帰って大きな鏡のそばを通りがかったとき、アリスははじめて、自分の姿をじっくりと見た。「輝くようなきれいな髪だわ。目だって、わるくない」 女性としての自信がわいてくるのを感じた。そのとき、鏡の中に何かが見えた。白い薄もののドレス。上方に差し出されたか細い腕。その小さな人影は、軽やかに舞ったかと思うと、消えた。アリスは急いでふりかえった。だが、そこには何もいなかった。
午後、アリスは、ベッシーが「ペイガンの塚」にすわって池の白鳥を眺めているのを見かけた。また、空想にふけっているのだろう。アリスがそばに行ってすわると、ベッシーは、リチャードとの仲を冷やかした。アリスが怒ってみせると、ベッシーはなおもはやしたてながら逃げ出した。アリスはベッシーを追いかけようと立ち上がり、ふと思い出して、ポケットから、ペイガンの写真をとりだした。アリスはそれを池の上で細かくちぎって捨て、「これでおしまい」とつぶやいた。そして、笑いながら、ベッシーのあとを追いかけていった。

感想
 1907年という時代設定、ペイガンの伝説、背中のやけどによるトラウマなど、さまざまな事柄が単なる彩りではなく、物語の展開に必要不可欠な要素として組み込まれている。
イギリスの親戚の屋敷に住むことになった外地育ちの少女という設定は、バーネットの『秘密の花園』(1911)を連想させる。『秘密の花園』では、わがままな主人公が、心身共に健やかな女中やその弟とのふれあいによって成長していくが、この作品では、逆に、まっすぐな気性の主人公が、屈折した心の持ち主である下働きの少女にふりまわされる。
 アフリカの村で白人社会から離れて育ったアリスには、人種差別意識も階級意識も全くない。正義感が強く、同情心に富む。ベッシーを受け入れさせようとペイガンを脅迫したり、ベッシーと赤ん坊を救うために、何よりも隠したい背中のやけどをさらけだしたりするほど、純粋でいちずな性格だ。一方、ペイガンの世界にあこがれる下働きのベッシーは、仕事をさぼり、主人の家のものをくすねながらも、奥様や乳母に取り入ろうとする、したたかな一面をもっている。アリスはベッシーとの関わりの中で、イギリスの階級社会について学ぶとともに、ここイギリスでは、目に見えないものを見たり感じたりすることに、アフリカにおけるのとは全く違う意味があることを知る。作者のこの着眼は、非常にオリジナルでユニークだと思う。
 リチャードは、この時代のこの階層(医師の息子)の少年にふさわしく、知的好奇心に富む生き生きとしたキャラクターに作り上げられているが、アリスの性格のほんとうの良さを理解しているとは思えない。「お屋敷の親戚筋のお嬢さん」という階級差と、アフリカに対する興味から、アリスにひかれているに過ぎない。リチャードとの恋によって、アリスは時代と階級の型にはまった平凡な女へと変化していくのではないかと思われる。その予感が一見、明るい終わりの中に、ほろ苦い後味をもたらしている。
主人公は14歳だが、文章が非常に明確なので、小学校中学年ぐらいから読めると思う。だが、この小説にこめられた皮肉や批評を味わえるのは、高学年以上だろう。

 copyright © 2003 Mizuhito Kanehara

 last updated 2003/8/22