管理者:金原瑞人

WHISPERS IN THE GRAVEYARD by Theresa Breslin
Mammoth,127 p.

粗筋 識字障害のソロモンは学校にも家にも居場所がなかった。唯一の避難場所であった墓地の木が倒されると、悪霊が蘇り、ソロモンと少女を連れ去ろうとする。ソロモンは、少女を無事に救い出し、自分自身と向き合って生きてゆこうと決心する。

ソロモン・・・・・・・・・・・中学三年生で、読み書きのできない少年
父(モリス氏)・・・・・・・・・・・ソロモンの父
ターマー先生・・・・・・・小学校一年生の担任の女教師
ミラー教授・・・・・・・・・墓地の調査を頼まれた歴史学の教授
アミー・・・・・・・・・・・ミラー教授の娘

要約
ソロモンは、父親と二人暮らしだった。父親はアル中で日銭稼ぎが精一杯、母親は、そういう父親に愛想を尽かし家を出ていた。ソロモンが安らげる居場所は、教区教会の、古くからある墓地の一角だ。その一角には、ナナカマドの木一本を除いては何も生えず、人もめったにこない。ソロモンはそこに身の回りのものを置いて、避難場所にしていた。父から習って墓地の墓石の紋章を読み、昔に思いをはせるのが好きだったが、書いてある文字はわからなかった。
 中学三年生のソロモン達を、担任は容赦なくしごき、ソロモンをいじめる。この日も、日記を書くことになり、ソロモンは唯一人の友達の力を借りて、字が書けないことを誤魔化そうとする。担任はソロモンの綴りをさんざん笑い者にして、教室からソロモンを追出す。家には前日から呑んだくれ酔いつぶれた父がいる。家に帰れないソロモンは、墓地に向かう。
 墓地にいるソロモンの目の前に、見慣れぬ二人の人物が現れ、ソロモンは物蔭に隠れて二人の話しを聞く。一人は町の役人、そしてもう一人は大学教授のミラー氏だった。町当局は、川の流れを変え、新しい橋をつけるために、川に隣接している墓地のソロモンの一角を掘り返して整理することにしたのだ。大切な隠れ家の周囲がにわかに騒がしくなる。それはソロモンにとっての最後の逃げ場が奪われることだった。
 作業の助言者ミラー教授は、この一角に天然痘患者の遺体が集団埋葬されている可能性があるという。この教授の言葉に、町当局は、本格的発掘は急がずに、まず、一本だけあるナナカマドの木を掘り起こすことにした。
 昼過ぎ、ソロモンが家に戻ると、父が酒を探し回っている。荒れる父から逃れて、友達の家に行くが、そこにもいられなくなったソロモンは夜の墓地に行く。墓地の静かな雰囲気は失われて、すでに夜警が置かれていた。夜警の犬はソロモンを追いかけるが、ソロモンの一角まで来ると何かにおびえ、消えてしまう。
 その晩、ソロモンは自分を招く囁き声を悪夢の中で耳にする。
 翌日は苦手な体育のある日だった。担任はソロモンを徹底的にいじめるが、通りがかったターマー先生がソロモンをいたわる。腹を立てた担任は、ソロモンを小学校一年のターマー先生のクラスに追放する。
 ターマー先生のクラスに行くと、そこにはミラー教授の娘のアミーがいた。先生は、ソロモンが読み書きができず、それを今までずっと誤魔化してきたことを見抜く。進退極まったソロモンは、教室で暴れ、そのまま外へ飛び出す。居場所を失ったソロモンは、墓地で夜を明かそうとする。ナナカマドは引き抜かれて、あとには大きな穴が開いている。夜になると、二人の作業員が、ナナカマドの下に埋まっている長持ちの中味を盗もうとやってくる。二人が長持ちを掘り出して蓋をこじ開けると、地面が揺れはじめ、長持ちに手を突っ込んだ男は消えてしまう。さらに、ソロモンを呼ぶ囁き声がして、ソロモンも長持ちに手を伸ばそうとするが、夜明けになると、その声も消える。ソロモンは何か邪悪なことが起こっていると思う。
 朝、家に戻ったソロモンをターマー先生が迎えに来る。新入生の親の説明会の準備を手伝って欲しいという。先生は、ソロモンにあくまで正直に話しをし、ソロモンの中に、先生に心を開こうかという気持ちが少しだけ芽生える。ソロモンと用務員と先生の三人で大掛かりな準備をして、先生は新入生の親相手に、模擬クラスを開く。大人達の意のままに急かされる、無力な子ども達の日々の生活を、体験してもらおうというものだ。その集まりが終わった頃、ミラー教授がやってきて、娘のアミーが学校にいないという。
 ソロモンと先生、教授はアミーを探し回る。そして、ソロモンは墓地のナナカマドの傍の穴のところでアミーを見つける。アミーは誰かが自分を呼んだのだという。やがて、教授と先生もやってくる。倒されたナナカマドはぐずぐずに腐り、辺りの生き物全てが死にはじめている。教授達が閉めたはずの南京錠もなぜか開いていた。
 先生はソロモンを家に送ってゆき、ソロモンの父と話しをする。ソロモンの読み書きに問題はないと言いはる父に、先生は、この家には印刷物が一つも見当たらないという。そして、父はともかく、ソロモンは読み書きできるようにならなくてはならず、自分はそれを手助けしたいという。ソロモンはこの時初めて、素晴らしいお話をし、素晴らしい絵を描いてくれた強い父親が、実は自分と同じように読み書きができず、それを誤魔化して生きてきたことに気付く。ショックを受けたソロモンは、部屋に貼ってあった父が描いた絵をずたずたに引き裂く。大好きな父と、冷たい母というソロモンの中の構図が崩れはじめる。
 翌日の午後から、ソロモンはターマー先生のクラスに行く。アミーがソロモンを自然に受入れ、好いてくれることで、ソロモンはどうにか教室で頑張れる。とはいえ、読み書きの勉強は、辛いばかりだ。
 その日、面白い歴史資料が見つかったから、という教授からの誘いがあり、先生とソロモンはグラスゴーの公文書館に行く。そこには墓地の埋葬記録とともに、その昔スコットランドで行われていた魔女狩りについての資料があった。その資料に近づくと、ソロモンの中のソロモンではない邪悪なものが動き、先生を突き落とそうという衝動が起こる。先生は魔女狩りの資料を借り出す。
 グラスゴーからの帰りに墓地に立ち寄ったソロモン達の目の前で、墓地の傍の川底から、行方不明だった二人目の作業員の死体が見つかる。そしてその夜、ソロモンはまた悪夢を見る。悪夢を見たまま、ソロモンは部屋からさ迷い出る。ソロモンを見つけて寝かしつけてくれたのは父だったが、以前のようにソロモンにお話をすることはできない。
 翌日、アミーは具合が悪くなって早退する。不安がるアミーをなだめて送り出したソロモンだったが、アミーがいないと教室にいるのが苦痛だ。先生はそんなソロモンにアミーの鞄を持って行かせる。アミーの家に行ったソロモンは、自分を呼ぶ声がするといって不安がるアミーをなだめる。そして、父が小さい頃からしてくれていたように、アミーにお話をして寝付かせる。
 家に帰ったソロモンは、父がまた酒を買い込んできているのを知り、必死で父に抗議するが、力尽き、絶望する。文字との格闘に疲れ果て、全てが無駄だと感じたソロモンは、家出を決意する。自分の持っている教材がほとんどアミーの持ち物なのに気づいたソロモンは、近づく嵐の中、家出の前に教材を返そうと、教授の家に向かう。
 アミーは行方不明だった。たくさんの警官が動員され、アミーを探している。墓地にアミーがいないのを確かめた後で、先生とソロモンも教授のいる警察に行って待つ。先生はグラスゴーで借りた資料の話をする。あのソロモンの一角には昔一人の女が住んでいた。その女は民間療法で病気を直していたのだが、粉屋(ミラー)の娘を救うことができず、以前から粉屋といさかいがあったこともあり、娘を呪い殺した科で火あぶりになった。女は死ぬ前に粉屋の一族に呪いをかけ、女の灰は長持ちに入れて埋められた。あのナナカマドは、その呪いを封じ込めるためのものだった。
 再び警察を出て、墓地にいったソロモンは、長持ちのそばにいるアミーを見つけた。アミーは長持ちの中から現れた悪霊に幻惑されて、そこを動こうとしない。ソロモンは自分の頭の中にも入り込んでくる悪霊と戦いながら、アミーを連れ戻そうとする。だが、アミーは嫌がり、悪霊も姿を現して、「アミーは自分のものだ」と言い張る。火あぶりになった女の霊は、再びこの世に形を得るために、ミラー(粉屋)の娘であるアミーを取り込もうとしていた。そこに、先生がやってくるが、アミーの手を取ろうとした先生は、悪霊に突き飛ばされて気を失ってしまう。ソロモンは一人で全力を尽くして、アミーを引き戻そうとするが、悪霊は、ソロモンの一番の弱点である自信の無さを執拗に突き、ソロモンはくじけそうになる。「泣かないで」というアミーの一言に気を取り直したソロモンは、なおも頑張るが、アミー自身が抵抗するのでどうしようもない。
 ソロモンは、ふと、夕方アミーにしたお話を口にする。するとアミーは話に興味を持ち、悪霊の影響力が少し弱まる。これに力を得たソロモンは、お話でアミーを長持ちから遠ざけようとするが、もう限界だった。嵐の中、アミーと先生を抱えて力尽きたソロモンの前に、父が現れる。父は、川の堤防が決壊するかもしれないというので、ソロモン達を探しに来たのだ。先生をひょいと肩に担ぎ上げた父は、ソロモンの先にたって力強く走り出す。霊が地面を揺るがせ、後ろに大水で溢れた川の濁流が迫る中、ソロモンは必死で父を追い続ける。父は無事に門まで辿り着くが、ソロモンは、安全な墓地の門まであと一息というところで、アミーを抱えたまま倒れてしまう。父と先生がソロモンとアミーを助け、間一髪、四人は大水から逃れる。長持ちは、大水で流れを変えた川の中に沈んでしまう。 その晩、アミーはソロモンに「助けてくれてありがとう」という。翌朝、家に帰ったソロモンは、父が結局酒を飲まなかったことを知り、父も、酒をやめるようにするという。 事件から何週間も経った頃。ソロモンは辛抱強い先生に励まされ、助けを借りて、文字との格闘を続けているが、進歩していると思えない。そんなある日、先生は、あの親向けの説明会が評価されて、校長から昇進の話があり、自分は学校を去るとソロモンにいう。自分を助けて欲しいと頼むソロモンに、先生は、ソロモンが自分に頼りはじめていて、これではソロモンのためにならないという。さらに、突き放されたように感じているソロモンに、ソロモンをとても大切に思っているといい、ソロモンは自分の力に自信を持っていいのだと励ます。

 copyright © 2003 Mizuhito Kanehara

 last updated 2003/8/22