管理者:金原瑞人

リーディングレジュメ
(書名)     Writing in Martian
(著者名)    Andrew Matthews
(出版社)    Mammoth(1993)
(ジャンル)   ヤングアダルト  三人の主人公の日記という形で書かれている。
(著者について)
イギリスの作家。ヤングアダルト向けに多数の著作がある。主な作品は次の通り。
Being Happy(1989) How the World Began(1996) Follow Your Heart(1997) Love Street(2000) いずれも未訳

 ミッキー、ウェイン、ブロンの三人は、ロンドンの同じ学校に通う親友だ。五年生(日本の高校一年生くらいにあたる)の学年末のある日、三人はそれぞれ日記をつけて休暇に入る前に見せ合おうと決め、家庭の問題、将来のこと、恋愛の悩みを正直に書きつづる。

(主な登場人物)
ミッキー(女)・ウェイン(男)・ブロン(女)……………主人公  総合中等学校の五年生
ブライアン………ミッキーの元ボーイフレンド、ブロンが好き
ジェフ……………ミッキーに思いを寄せる少年

(あらすじ)
 ミッキー、ウェイン、ブロンの三人は、幼い頃からの親友だ。五年生が終わろうとするある日、三人はそれぞれ日記をつけ、学年末の休暇に入る前に見せ合おうと決める。日記には、毎日の出来事や自分の気持ちを正直に書くことにした。嘘や偽りだらけの世の中で、自分たちだけは本心を打ち明け合おうと思ったからだ。
*七日(水曜日)〜八日(木曜日)
(ミッキー)
七日は、付き合っていたボーイフレンドのブライアンと一年前に別れた記念日だ。特に理由はないけれど、しっくりいかなくなった。このまま付き合いつづければ、やがてお互いを憎むようになると思ったから、別れることにした。ブライアンとは、今ではいい友人だけれど、本当のことをいうと、まだ彼を愛している。友だちなんかじゃなく、また恋人どうしになれたらどんなにいいだろう。
学校で、ジェフに話しかけられた。ブロンは、こんなつまらない子のどこがいいんだろう。なれなれしく隣に座ろうとしたので、タイタニックを沈めた氷山のように冷たく言ってやった。「あんたって退屈」
(ウェイン)
 ミッキーはブライアンの気を惹こうとしているけれど、ブライアンが本当に好きなのはブロンだ。彼は、朝ブロンが妹のエリーを保育園に送っていくのを、校門のところでじっと見ている。でもミッキーはそれに気づいていない。ミッキーはブライアンが好き、ブライアンはブロンが好き、ブロンはジェフが好き、そしてジェフはミッキーが好きだ。ジェフに会ったら、ミッキーにひどいことを言われたとしょげていた。ミッキーを見かけたのでたしなめたら、放っておいてと言われてしまった。ミッキーは皮肉屋で、ときどききついことを言う。ブロンが、考え深くて控えめなのとは正反対だ。
(ブロン)
来年、GCSE(普通中等教育修了証書 大学に入学するためには、Aレベルを取ることが必要)のAレベルを取るつもりだ。母さんは十七歳で妊娠し、大学へ行けなかったので娘のわたしに夢を託しているらしいが、その期待がときどき重荷に感じられることがある。
 久しぶりに父さんから手紙が来た。講演のためにロンドンに滞在するので、会えないかと書いてある。ホテルの住所も記されていた。父さんは、妹のエリーが生まれてまもなく、母さんと別れてアメリカへ行った。ときどき連絡はあるけれど、結局、わたしたちは父さんに捨てられたのだ。迷った末、手紙を屑かごに放り込んだが、涙が出てしょうがない。
*九日(金曜日)〜十日(土曜日)
(ミッキー)
 土曜日の夜、ブライアンとパブで会った。前日、友人として話がしたいから会ってほしいと言われたのだ。恋愛の対象としてわたしを見てくれないのは少し物足りないけれど、こうして友人として付き合うのも悪くないかもしれない。ブライアンは、十五日に行われるプロムにわたしを誘ってくれた。
(ウェイン)
 ジェフに「ミッキーやブロンのようにきれいな女の子をガールフレンドにしようと思わないなんて、変わっている」と言われた。僕は、男の子たちが興味を持つ車や格闘技が嫌いだし、男の友だちもいない。みな荒っぽくマッチョで、僕にはついていけないのだ。みんなからは変わり者だと見られているけれど、自分を無理に変えることはないと思う。
 父さんと母さんから、将来のことを聞かれた。画家になるために、必要な科目でAレベルを取るつもりだと言うと、反対された。父さんは航空管制官で母さんは経営コンサルタントだから、二人とも自分たちと同じように安定した職業につくことを望んでいるのだ。でも、僕は父さんたちが敷いたレールの上を走る気はない。
(ブロン)
 ブライアンからプロムに行こうと誘われた。わたしが断ると、「ミッキーはただの友人で、本当に好きなのはきみだ」と言う。ミッキーの気持ちを考えると複雑な気持ちだ。
 土曜日に、母の恋人のスティーヴがやってきた。エリーはなついているけれど、わたしはスティーヴが嫌いだ。彼は父さんの代わりにはなれない。母さんやエリーが楽しそうにしているのを見ると、自分だけがのけ者のような気がして悲しくなる。
*十一日(日曜日)〜十二日(月曜日)
(ミッキー)
 日曜日、「ニュー・プレイス」へ出かけた。「ニュー・プレイス」というのはわたしたちがつけた名前で、近くの湖のほとりにある野原のことだ。わたしたち三人は、子供の頃から日曜日ごとにこの場所へ来ていろいろ話をしたり、将来の夢を語りあったりしてきた。ときどき、ウェインとブロンとは、前世でも親友だったのかもしれないと思うことがある。
(ウェイン)
 月曜日、学校でジェフから詩を見せられた。ミッキーに捧げたものだという。不良と付き合って悪ぶっているけれど、ジェフは本当は繊細で臆病な人間らしい。僕は、ミッキーは詩に興味がないかもしれないと言い、「ブロンがきみのことを好きらしい」と教えてやった。
(ブロン)
「ニュー・プレイス」で会ったミッキーは、嬉しそうだった。ミッキーが幸せそうだとわたしも嬉しくなる。「ニュー・プレイス」は、今でも子どものときと同じように美しく特別な場所だ。でもいつかみな大人になり、やがてはここへ来なくなるんだろう。
 月曜日、ブライアンがミッキーをプロムへ連れて行くという噂を学校で聞く。ミッキーが嬉しそうだった理由がわかった。わたしは、ブライアンから誘われたのを黙っていることにする。授業が終わるとジェフが待っていて、一緒に帰ろうと言った。帰り道、いろいろな話をした。五年来の知り合いだが、お互いにゆっくり話をしたのは初めてだ。ジェフはわたしと話すのがとても楽しいと言い、「一緒にプロムへ行こう」と誘ってくれた。
*十三日(火曜日)〜十四日(水曜日)
(ミッキー)
 火曜日の朝、母さんに、プロムのためのドレスを買ってほしいと話したら、「そんなお金がどこにあるの」とひどく怒られた。優等生のブライアンは母さんのお気に入りだから、喜ぶと思ったのに、母さんは、子育てのために自分の夢を諦めたと泣き言を言い始める。でも、学校から帰るとき父さんが待っていて、ドレスを買いに連れて行ってくれた。夕食のとき、そのことを知った母さんはひどく不機嫌になり、誰とも口を利こうとしなくなる。
(ウェイン)
 十三日の夜、部屋にあった雑誌のことで父さんからひどく叱られた。母さんが見つけて言いつけたのだ。僕が、ヌード写真を見るのは絵の勉強のためだと言うと、父さんはこんな雑誌を読むなんて不健康で異常だと怒った。でもつまらないことで怒鳴り、僕の夢を尊重しないで、自分の価値観を押し付ける父さんのほうがよほど異常だと思う。
 翌日の昼休み、ジェフに会った。ブロンとプロムに行くと聞かされるが、そのことがかえってブロンを傷つけることになるのではないかと心配だ。僕はジェフに誘われ、一緒にプロムへ行くことにした。ガーディアン・エンジェルの役も悪くないかもしれない。
(ブロン)
 ジェフとプロムへ行くと言うと、母さんは「男の子にうつつを抜かしていないで勉強しなさい」と怒った。わたしと同じ年の頃、恋愛をして学校をやめているので、同じ失敗を繰り返させてはならないと思っているらしい。ミッキー、ウェインは大学へ行くのだろうか。日記をつけると決めたことは、わたしたちにとってよいことかどうか、このごろわからなくなる。真実を知らせるのと隠しておくのと、どちらが本当の友情なのだろうか?
*十六日(金曜日)
(ミッキー)
 昨日はどうしても日記を書く気にならなかった。でも、気持ちの整理をつけるためには、プロムでの出来事についてきちんと書かなければ。
 昨夜、ブライアンが迎えに来た。わたしはこっそり持ってきたウオッカを車の中で飲んで、ブライアンにたしなめられた。プロムの会場に着いてブライアンと踊り始めると、騒ぎが持ち上がった。ウェインとジェフがケンカを始めたのだ。ウェインが一方的に殴られて血を流している。彼みたいに優しく繊細な人間を殴るなんて、許せなかった。
 わたしはウオッカの酔いが回り、吐いてしまう。気がつくと、ブライアンとともに誰かのアパートの一室にいた。部屋ではパーティが行われている。ここがどこなのか、まったくわからなかった。わたしは、成り行きでブライアンとセックスする。終わったあと、彼はこうなったのを後悔していると話し、本当に愛しているのはブロンだと言った。
(ウェイン)
 朝、起きると体中が痛かった。上唇は腫れ、目の周りにはあざができている。昨夜、ブロンはパーティに来なかった。ジェフは激怒し、女の子にすっぽかされたのは初めてだと泣き出した。慰めようと肩に手をかけると、「触るな、ホモ野郎!」と言われてひどく殴られた。トレバー先生に送られて家へ帰ると、父さんは監督不行き届きだと先生に食ってかかり、殴り返さなかった僕を叱りつけた。
*十七日(日曜日)
(ミッキー)
 ブライアンから電話があり、プロムの夜のことを謝りたいと言われた。どういうつもりだろう? 一体、何を怖がっているんだろう。コンドームをつけたので、わたしが妊娠する心配はないのに。ただブライアンが、ブロンを好きなの隠していたのが許せなかった。自分の心を偽る人間は大嫌いだ。
ウェインの様子を聞くため、家に電話した。彼は元気そうだったが、ブロンがプロムに来なかったのを心配していた。家に電話をしても誰も出ないという。
(ウェイン)
 昼頃、ミッキーから電話をもらった。泣いているようだったが、どうしたのだろうか。ミッキーとブロンは大切な親友だ。僕は、友情のあかしとしていつか三人の絵を描こうと思っている。ミッキーは花が咲いている桜の木、ブロンは清らかな白鳥、僕は広い空。
*十九日(日曜日)
(ブロン)
 金曜日の晩、プロムに行く支度をしていたとき、スティーヴがやってきた。友人の所へ出かけた母さんとエリーが、酔払い運転の車に追突されたという。二人とも無事だが、エリーは大事を取って入院したとのことだった。わたしは病院に行って母さんに会い、父さんがロンドンに来ているから、エリーのことを知らせたほうがいいと言った。すると母さんは、エリーはスティーヴの子だ言い、父さんと離婚したいきさつを話し始めた。
父さんは酒癖が悪く、結婚してしばらくすると、それが原因で夫婦仲が悪くなった。父さんが講演のために家を空けたとき、母さんはスティーヴと関係を持つが、その後、スティーヴが別の女性と付き合い始めたので、父さんとよりを戻そうとする。だがエリーが生まれると、父さんは自分の子ではないと気づき、家を出て行ったという。母さんは、女性と別れたスティーヴと再び付き合うようになった。まるで十代の少年少女のような恋愛ゲームだ。母さんは、わたしのAレベルの試験が終わったらスティーヴと結婚するつもりだと話し、イギリスで暮らすか、父さんのいるアメリカの大学へ入るか決めなさいと言った。
土曜日、母さんとスティーヴはエリーをつれて買い物に行った。一日中、電話が鳴っていたけれど出る気になれず、夜、「ニュー・プレイス」へ出かけ、湖にかかった橋の上でこれからのことを考えた。アメリカにも行きたくないし、スティーヴと暮らすのも嫌だ。どちらにしてものけ者になり、自分が自分でなくなる気がする。あれこれ悩んでいるうちに眠ってしまったらしい。気がつくと明け方の五時だった。そのとき、ミッキーとウェインの声がした。母さんに頼まれて探しに来たという。母さんは、帰宅してわたしがいないことに気づき、ひどく心配していたらしい。
わたしたちは子供の頃のようにいろいろと話をし、友情を確かめ合う。自分を見失いそうになったとき、本当の自分を見つけ出す手助けができるのは、欠点も、弱さも何もかも受けれくれる友だちだけだとはっきりわかった。
(感想)
 進路の決定を間近に控えた少年、少女の心の揺れが、生き生きと描かれている。日記という形式を取っているので、書き方に三人の個性が現れていて面白い。ミッキーの文章には辛らつなユーモアがあり、芸術家肌のウェインは、ときおり劇のシナリオのように自分を突き放して書く。ブロンの文章は、きちんとしていて抑制がきいている。
 特に大きな事件があるわけではなく、ストーリーの面白さを求める読者には物足りないかもしれないが、読み終わった後、さわやかな印象を残す作品だ。日本の中高生に読ませたいヤングアダルトの佳作だと思う。

 copyright © 2003 Mizuhito Kanehara

 last updated 2003/9/5