管理者:金原瑞人

【題名】Hard Time
【仮題】ヒ・サ・ン
【初版年】2003年11月予定
【出版社】Simon & Schuster Children’s Publishing予定
【頁数】256ページ予定 プルーフ243ページ
【翻訳予定枚数】原稿用紙約530枚
【対象】中高校生以上
【作者】Julian F. Thompson(ジュリアン・F・トンプスン)
 アメリカの人気YA作家。多数作品を出しているが、日本では『テリーと海賊』(アーティストハウス刊)が紹介されているのみ。1970年代、ニュージャージーにオルタナティヴスクール(教科の自由な選択など、従来とは異なった教育方法を用いた学校)を設立している。現在、アーティストである妻のポリー・トンプスンとともにヴァーモント州バーリントン在住。

【概要】
 15歳のアニーは、親の期待を裏切らない素直ないい子。それがある日とつぜん、自分の書いた作文のせいで、裁判にかけられ、挙句の果てには、矯正施設に送られてしまう。頼りになるのは、親友「ゴキ・ボーイ」ことアービーと、赤ちゃん人形に魔法で閉じ込められている妖精プリモと、何より自分!
 ユーモア・タッチで描かれた、リアリティとファンタジーのいりまじったYA作品。

【登場人物】
アニー        15歳。女の子。
アービー       15歳。男の子。アニーの親友。
パンタグリュエル・プリモ   妖精の一種。身分はエスクワイア(郷士)。
スラーパガー・ザ・クウェント トロル
ブルーミンデール   地方検事。
ブラッド       矯正施設BBCのカウンセラー。
ソフィ        矯正施設BBCのカウンセラー。
スミザーズ博士    矯正施設BBCの理事。
サム・T・クインシー 森の番人。

【あらすじ】
「あたしたちは生まれたとたん、生きるっていう刑を宣告されたようなものなのよね。で、中には最初からヒサンな目にあうように作られてる人がいるの。あたしはその極めつけ」アニー・アイルランドは、アービーにそういったことがある。そして今、アニーは赤ちゃん実習の真っ只中にいた。コンヴァース高校1年の女子は全員、この実習を受けなければならない。人間そっくりの赤ちゃん人形を1日中世話する実習だ。ミルクを飲ませて、ゲップをさせて、おむつを替えて……というのを、スケジュール通りにやらないといけない。「責任感を学ぶため」というけど、「それなら心配ないのに」とアニーは思う。むしろ責任感ありすぎって感じだ。だって、両親に反抗することもなく、期待通りのことをずっとしてきたんだから。
 火事になった原因はいくつか考えられる。けれども、とにかく原因は不明だった。で、とにかくアニーの家は火事になってしまった。煙が迫りくる中、アニーは自分の部屋のドアから逃げようとしたとき、声をきいた。「窓から逃げたほうがいいと思う」声の主はなんと、赤ちゃん人形。「ぼくはパンタグリュエル・プリモ。身分はエスクワイア(郷士)」アニーは最初は驚いたけど、すぐに事実を受け入れて、人形をひっつかんで逃げた。
 翌日から、アニーは大金持ちの親戚、サックス家の屋敷にしばらく住むことになった。普段着はほとんどオーバーオール、というアニーには、この気取った家族が全然合わない。けれども、両親がこんなときに能天気に、南カリフォルニアかどこかのダイエット道場に入ることに決めてしまったから仕方ない。アニーはひとり、預けられることになった。
 このヒサンな状況を、いちばんの親友アービーに話した。アービーの本名はニモだけど、「ゴキ・ボーイ」の名で知られている。ゴキ・ボーイ=Roach Boy=R・B=(発音から)アービー。アニーはニモをアービーと呼んでいる。で、なぜゴキ・ボーイかというと、アービーのおじさんがハロウィーンの時期にだけやるアミューズメントパーク内で、ゴキブリまみれになるバイトをしているからだ。シュノーケル用のマスクをかぶって、全身ウェットスーツに身を包み、透明ケースの中に入って横たわる。そこには無数のゴキブリが這い回っている。しかし、5分ごとに光があてられると、ゴキブリは魔法のように、その箱からいなくなる、という人気の見世物だ。アービーはこのバイトを淡々とやってのけている。本人曰く、「普通の仕事とおんなじだよ」。
 アービーはアニーに赤ちゃん人形のプリモを紹介されたとき、驚きながらもなんとか笑顔を作った。「でも、どうしてしゃべれるんですか?」という問いに、プリモは答えた。自分は妖精の一種で、スラーパガー・ザ・クウェントという名のトロルと魔法の力くらべをするうちに、赤ちゃん人形の中に閉じ込められてしまったこと。この魔法を解けるのは、スラーパガーだけで、こちらはスラーパガーの気の済むまで待つしかないこと。人形の身体で動くことはできないけれど、いたずらの魔法は使えること……。そしてこのときから、プリモとアニーとアービーのおかしな友情が始った。
 その日、アニーは夜になって宿題を思い出した。「人生最悪の瞬間」という題材で、物語を作らなくてはいけない。なのにまだ、1文字も書いてない! それから、プリモの励ましで、なんとか書いたのが、タイトル『人生最悪の瞬間?』だった。
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 アシュレーは学校に行く途中、巨大なマッシュルームをみつけた。なぜかその上に座ったアシュレーは、次の瞬間、その場に倒れてしまった。目の前には小人が立っている。実はそのマッシュルームはスラーパガー・ザ・クウェントというトロルで、「かわいい子が座ると解ける」という魔法にかけられていたのだ。スラーパガーは魔法を解いてくれたお礼にと、アシュレーに魔法のリモコンをくれた。人間にそれを向けると、「その人のチャンネルが変わる」という。アシュレーはお礼をいって、学校に行った。学校では、抜きうちテストが待っていた。問題がよくわからないアシュレーは、先生に質問するが、先生はいやみたらたら。思わず、アシュレーはリモコンを先生に向けた。とたんに先生の顔から生気が抜けて、ずるずるその場に座り込んでしまった。「あんた、学校にリモコンなんて持ってきて、いいと思ってるの?」口うるさい同級生が叫んだ。アシュレーはその子にもリモコンを向けた。とたんに、その子も動かなくなってしまった。他の子がいった。「死んでる」アシュレーは死んだふたりをかわいそうに思ったが、自分のせいとはあまり思えなかった。だれのせいかといったら、スラーパガーのせいだ。そんなわけで、アシュレーにとって、先生と同級生の死は「人生最悪の瞬間」というわけではなかった。
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 アニーが書き終わった『人生最悪の瞬間?』を読むと、プリモはとても褒めてくれた。アービーも、先生も褒めてくれた。しかも、先生は後日、学校発行の文芸雑誌にアニーの作文を掲載してくれた。ところが、そこからとんでもない事件が起きてしまった。雑誌に載ったアニーの作文を、清廉潔白・犯罪撲滅がモットーの地方検事、ブルーミンデールがたまたま読んでしまった。ブルーミンデールはすぐさまアニーを「ターゲット」に決めた。犯罪を未然に防いでいる、ということを世の中に示すチャンスだ。
 数日後、アニーはとつぜん校長室に呼ばれ、そのまま裁判所に連れていかれた。裁判所には、ブルーミンデールから連絡を受けたサックス家のおじとおばがきていた。アニーの両親は、ちょうど「泥風呂体験中」で連絡がつかなかったという。わけのわからないアニーに、おじ、おば、弁護士が説明した。アニーは検事ブルーミンデールによって、「公共の安全を脅かした罪」に問われていた。アニーの書いた『人生最悪の瞬間?』が、「偶然を装って教師を同級生を殺す」という殺人計画だというのだ。アニーはもちろん違うといったが、だれもきいてくれなかった。けっきょく、その日は家に帰されたものの、裁判を受けることになってしまった。
 裁判の日、アニーは「学校の実習だから」といって、プリモを裁判所に連れていった。アービーも傍聴席にいる。裁判はアニーの弁明をまったく無視して進められた。そしてついに判決が言い渡された。「5日間、刑務所に入ること」アニーはブルーミンデールの考えた「他の若者へのみせしめ」的・初の試みとして、大人の入る刑務所に入れられることになってしまったのだ。「ふざけんな!」傍聴席にいたアービーが叫び、裁判長と言い合いになった。その結果、なんとアービーまで刑務所に5日間入れられることになった。
 刑務所は男女別のため、アニーとアービーは離れ離れになってしまった。ただ、アニーはプリモを連れてくることができた。プリモは「いかなる国の法もおかしてはいけない」という自分の世界のきまりにしばられているために、裁判をどうにかすることはできなかったが、いたずらの魔法なら使うことができる。アニーが刑務所にいるあいだも、ちょっとした魔法でアニーを和ませてくれた。アービーも、本当なら、15歳の少年が大人の刑務所に入ったりしたら、かなりヒサンな目にあうところだったが、たまたまおじがむかし刑務所に入って一目置かれる存在だったおかげで、おじの名を出すと、無事ですんだ。アニーもアービーもなんとか5日間をやりすごした。
 ところが、家に帰ってきてほっとしたのもつかの間、アニーとアービーは両親とおじさんたちに、寄宿学校に入りなさいといわれた。「バック・トゥ・ベイシック・センター」、通称BBC。山奥の僻地にある矯正施設のようなところだ。ふたりとも、まさか無理矢理入れられることはないだろうと思っていたが、ある日の真夜中、とつぜん起こされたかと思うと、BBCからの迎えの車に乗せられてしまった。アニーはプリモを連れてこられたのが、せめてもの救いだった。けれども車の中で、自分を助けてくれないプリモをつい、なじってしまい、ふたりは冷戦状態になってしまう。
 BBCは、心理学者のスミザーズ博士が理事を務めている。モットーは「体制と規律」。カウンセラーの言うことは絶対。いわゆる「カウンセラーの言うことをきくロボット」にならないと、卒業はできない。また、生徒は6人ずつのグループに入れられ、ひとりひとりの行動がグループ全体の責任になる。たとえば、だれかが決められた仕事をやらなければ、それはグループの責任になる。それだけみんなの卒業が遅れることになる。アニーとアービーはスミザーズ博士命名の「グーグー組」(意味不明!)に入ることになった。どの子もひとくせもふたくせもあるワルという感じだ。また、「グーグー組」にはブラッドとソフィという、これまた一筋縄ではいかなそうな男女のカウンセラーがつくことになった。
 初日の晩、アニーはふと思った。我が家で欠けていたものは、「体制」でも「規律」でもない。「会話」だ。両親はあれをやれ、これをやれとアニーにいい、アニーもそれに返事はしたものの、自分の気持ちを話したことはなかった……。そのとき、はっとした。アニーもプリモに対して両親と同じことをやっていた。自分の希望を押し付けていただけだ。「ごめんなさい」アニーはプリモに素直に謝った。ふたりは仲直りした。
 翌日から、「グーグー組」はハイキングに出掛けることになった。ハイキングといっても、カウンセラーたちのもとで、数日かけて山の中をひたすら進みつづける過酷なものだ。アニーたちはぶつぶついいながらも、表立っては反抗しなかった。早く卒業するためだ。キャンプの荷造りをしているとき、グループのひとりが言い出した。「ブラッドがおれをつかんだところみたか? あいつはプロの殺し屋だ」それから、なぜかスミザーズやカウンセラーたちが、親に頼まれて高い金をもらって子どもたちを殺そうとしている、という話になった。アニーとアービーは「まさか」といったが、他の3人はそう信じて疑わない。やられる前にこっちが団結してカウンセラーたちを殺そう、と言い出した。しかし、残りのひとりがいった。「あたしは殺しはしたくない。でも、ここに長くはいたくない。6人で隙を突いて逃げるのはどう?」けっきょく、アニーたちもその意見に従うことにした。
 ハイキングが始った。アニーたち6人は軍隊の演習のようにひたすら歩かされた。キャンプ設営では、アニーとアービーは、連れてきたプリモの魔法のおかげでかなり助かったものの、1日目からへとへとになってしまった。2日目の晩、事件が起きた。カウンセラー用の食事にはサルモネラ菌か、もっとすごい菌が入っていたらしい。ふたりは真夜中に吐き下して苦しみだした。グループの子のひとりがいった。「チャンスだ」そして、ブラッドとソフィを木に縛り上げてしまった。ブラッドのナップサックから銃がみつかった。「やっぱり。親に頼まれて、おれたちを殺そうとしてたんだ。これが証拠だ!」ブラッドが「野生動物が襲ってきたときの護身用だ」といっても、子どもたちは信じなかった。しばらくして、アニーは気がついた。プリモがいない! みんなにきいても、そんな「人形」はだれも知らないという。このまま逃げるべきか、残って探すべきか。アニーは迷った。「自分は残る」といったら、アービーも残ってくれるだろう。けれどもこれ以上、アービーを巻き込んではいけない。「アービー、みんなと一緒に逃げましょう」アニーはいった。
 翌日、みんなはカウンセラーたちを木に縛ったまま、出発した。しかし、アニーはキャンプ地を離れるにつれ、心配になってしまった。カウンセラーたちが食中毒から回復する前に、野生動物に襲われたらどうしよう。このまま放っておくことはやっぱりできない。それに、プリモのこともある。「アービー、本当にごめんなさい。あたし、やっぱり……」「いいよ、戻ろう」アニーとアービーは、他の4人にも「戻ろう」というが、4人は首を縦に振らなかった。しかし、邪魔もしなかった。アニーとアービーはふたりでキャンプ地への道を戻りはじめた。
 ところがその日、暗くなっても元の場所にはつけなかった。道に迷った……?と思いながらも、そのことはふたりとも口にしなかった。その晩は、手ごろな場所で寝ることにした。寝袋はふたつあるけれど、ふたりは一緒の寝袋に入った。アニーにとって、男の子と「ベッド」に入るのは、ほんとに初めてだ。しかもいちばん仲のいい子と。本当に愛してる男の子と。アニーがアービーをみると、アービーがにっこり笑った。そして、ふたりはキスをした。舌も絡めて。すごく素敵なキスだった。そのあと、すごく暑くて、ふたりは服を脱いだ。けれども、アニーはしっかりしなくちゃ、と思った。ちゃんと質問したほうがいい。「コンドーム持ってないわよね?」「うん、持ってない。うん、わかってるよ、その意味は」アニーはもう一度キスをして思った。アービーって本当にすてきな子。それからふたりは幸せな気分で眠った。
 翌日になって、歩きはじめると、はっきりわかった。やっぱり道に迷ってる。そのとき、音楽がきこえてきた。ふたりは、道を教えてもらおうと、音のほうへ行った。すると、そこには、本でみたことのある「牧神パンの笛」を吹く男がいた。緑の服を着て、赤いふさふさのひげをたくわえている。「サム・T・クインシーだ」アービーがいった。ハイキング1日目に、たまたまアービーだけが出会って仲良くなった森の番人だ。クインシーはふたりをみるなり、喜んで招きよせ、おいしい昼食をごちそうしてくれた。そして、ふたりから事情をきくと、キャンプ地まで案内してくれた。カウンセラーたちは木に縛られたままだったが、無事だった。ふたりをみると、怒り出したものの、戻ってきたことについては、最後には感謝してくれた。アニーとアービーとカウンセラーたちは、クインシーと別れて、BBCに戻った。
 スミザーズ博士とカウンセラーたちとの長い面談が続いたあと、今度はスミザーズ博士とアニーとアービーたちの話し合いになった。アニーたちは、自分たちがセンターにきてから「カウンセラーたちのもとに戻る」という責任ある行為をするまで成長した、と力説し、卒業させてほしいとさりげなくいった。しかし、ふたりはスミザーズによって、外部から完全に遮断された箱型の部屋――独房にそれぞれ入れられてしまう。スミザーズにしてみれば、4人もの「金づる」を「逃がした」ふたりを、早々にここから出すわけにはいかなかった。しかも、カウンセラーたちが都合よく作り上げた「4人を逃がした理由」によると、ふたりはカウンセラーの食事に毒を入れたことにまでなっていたのだ。
 独房には、トイレと寝床以外、何もなかった。窓がないため、光で時間の見当をつけることもできず、電気が消えたら夜、と思うしかない。食事は3度与えられたが、食欲のわく代物ではない。アニーもアービーも、スミザーズに弱みをみせたくなくて、なんとか耐えていたが、相当参ってしまった。そしてある日、とつぜん朝からフィッシュ・フライとスパゲティというヘビーな朝食が出された。魚は脳にいいから、スパゲティは体力につながるから、という。その日、ふたりは独房から出されて、大切なテストを受けることになった。心理学の権威、ロール教授がきて、BBCの生徒全員に、怒りと危険性のテストを行うという。テストでその兆候が認められると、「BBCにいる必要がある」というお墨付きをもらったことになる。親から高額な学費をとっているスミザーズたちにとって、それは非常にありがたいわけだ。
 やがて、スミザーズと一緒にロール教授が入ってきた。それから、テストの用紙を読んで、アニーもアービーもびっくりした。どれもへんてこな問題だ。ふたりは最後の選択問題に目をとめた。「次のうち、すばらしい短編のタイトルはどれ? 『人生は40歳から始る』『人生最悪の瞬間?』『ミシシッピ川の上の人生』」。ロール教授の正体は、プリム! アニーとアービーは無言で目を見合わせた。テストが終わり、ロール教授が採点結果をスミザーズにいった。「このふたりには、怒りと危険性の兆候がほとんどありません。すばらしい! ぜひうちの大学で研究をさせてください」スミザーズは断った。金づるを取られてはかなわない。すると、そこに「プライズ・パトロール」の一行が現れた(※宝くじの一種。当選者のもとへ、主催会社の一行がとつぜん当選を知らせにやってくるシステム)。なんと、1千万ドルがスミザーズに当ったという。しかし、その当選を知らせにきた人は、なんとサム・T・クインシーだった。とにかく、1千万ドルが当ったスミザーズは、アニーとアービーを学費のために引き止める理由もなくなり、さっさとロール教授に引渡した。
 ロール教授とアニーとアービーは、外で待っていた車に乗り込んだ。運転席には、サム・T・クインシーが乗っている。みんなは再会を喜び、ロール教授こと、プリムは魔法が解けた経緯を話した。「カウンセラーたちが食中毒になった晩、スラーパガー・ザ・クウェントがやってきて、とうとうぼくの魔法を解いてくれたんだ。で、そのスラーパガーというのは、ぼくの昔からの友人、サム・T・クインシー、そこにいる森の番人、森のトロルだ」
 アニーはもとの高校に戻り、家族との関係も前よりよくなった。アービーは密かに、アニーといつか結婚しようと心に決めた。スラーパガー・ザ・クウェントとプリモに関しては、数週間後、アニーとアービーがある新聞記事をみつけた。ラスベガスの新しいカジノに「アイスランド人オーナー」が就いたらしいという記事だ。アイスランドといえば、トロルや妖精の国。もしかしたら、プリモたちは、人間たちのばかな行動をだまってながめて楽しもうと決めたのかもしれない。

【感想】
 ユーモアたっぷり、テンポよく読める作品だ。こんなことが現代の法治国家アメリカで起きていいの?とアニーたちも作中でいっているように、アニーの身辺では、突拍子もないことが次々に起きる。そして、最後も出来すぎと思えるくらいのハッピーエンド。うそだあ、と思わずいいたくなるような展開ばかりなのに、最後までしらけずに読めるのは、作者のストーリーテリングの力量といえる。独特の楽しい語り口とスピード感に乗って、一気に読まずにはいられない。
 また、アニーとアービーの魅力もある。最初のふたりの紹介のところで、たいがいの人はその魅力に参ってしまうはず。アニーとアービーは、見た目も性格もちょっとよくて、性格もちょっとよくて、おまけにちょっと変わっているところがある。その「ちょっと」加減が嫌味な部分をなくして、気持ちのいいヒロインとヒーローを作ってくれている。身近だけれど光っている、という感じだ。また、ふたりの淡い恋もかわいくていい。
 プリムとスラーパガーの存在も光っていた。プリムの「赤ちゃん人形に閉じ込められた妖精」という設定は、あまりにもベタで、最初はどうなることかと思ったが、読み進むうち、おちゃめな魔法が笑わせてくれたり、アニーとのやりとりで思わず考えさせてくれたりと、魅力を発揮してくれる。スラーパガーの正体は、ヒントがさりげなくちりばめられているため、勘のいい人ならわかってしまうが、この作品はノリで読めてしまうところがあるので、ご愛嬌という感じで許容範囲だ。
 激しい性的描写はないが、少々きわどいシーンがあるので、対象は中学生以上が妥当だろう。本書の場合、全体がユーモア・タッチでありながら、安全なセックスについてアニーとアービーが考える場面がきちんと書かれており、その点はYAにふさわしいといえる。
 本書はトロルなどの昔ながらの不思議な存在を扱うファンタジーの面を持ちながら、たっぷりのユーモアとちょっぴりの風刺をきかせた現代的なYA作品に仕上っており、どの作品とも似ていない独特のものになっている。楽しくて、ある意味まじめなYA作品。おすすめだ。


last updated 2003/12/25