管理者:金原瑞人

書名・・・・・・Joshua Cross
著者・・・・・・Diane Redmond
出版社・・・・・Wizard Books(2002年)
総ページ数・・・200頁
ジャンル・・・・ヤングアダルト

主な登場人物
ジョシュア・クロス・・・・もうすぐ10歳になる男の子。勉強が苦手でサッカーが好き。
アレクサンダー・クロス・・ジョシュのパパ。前世はリュマリュスという古代ギリシャの英雄。
ミス・クロス・・・・・・・ジョシュのママ。
レアトッド・・・・・・・・もとはパパが師と仰いだ予言者。いまは宿敵。
ディド・・・・・・・・・・ジョシュの親友。男の子もたじたじの何でもできる女の子。
スティーヴ・・・・・・・・ジョシュの親友。ジョシュと同じく勉強は苦手。
ヘラクレス・・・・・・・・古代ギリシャの英雄。ゼウスと人間の女性の間にできた子供。旅の始まりでジョシュを助けてくれた。
ヘルメス・・・・・・・・・ゼウスの子ども。翼のついたサンダルを履いて、世界中をとびまわるメッセンジャー。
アポロ・・・・・・・・・・太陽神。享楽的で、自由自在に変身できる。
アテーナー・・・・・・・・知恵の女神。
メイト・・・・・・・・・・ジョシュの旅の道連れのカモメ。
マック・・・・・・・・・・ジョシュが旅の途中で拾った犬。

梗概
ジョシュア・クロス(愛称ジョシュ)は、ママと6歳年上の兄トムと共に、テムズ川のほとりにある小さな家で暮らしている。パパは、ジョシュがまだママのおなかにいるときに、ボートから落ちて、溺れて亡くなった。10歳の誕生日を目前にしたある日、そのパパが、突然ジョシュの夢の中に現れて……。

あらすじ
第一章 シェイクスピアズ・チッピー
ジョシュはママと兄さんのトムと一緒に、ロンドンで暮らしている。パパが亡くなって以来、ママはフィッシュ・アンド・チップスの店“シェイクスピアズ・チッピー”を切り盛りして、ジョシュたち兄弟を育てている。ママやトムの話によると、パパは世界中を旅する船乗りで、とても物知りで、やさしい、とにかくステキな人だったらしい。
第二章 ロンドン・アイ
ある日、ジョシュは不思議な夢を見た。夢の中にパパが現れ「私の宿敵、レアトッドがお前を殺そうとしている」と告げた。その夢以来、学校へ行く途中、ギリシャ神話の半人半馬の伝説の生き物、ケンタウロスに追いかけられたり、苦手なはずの歴史の授業で、古代ギリシャの歴史や神々に関する知識がすらすらと口をついて出てくるなど、ジョシュに奇妙なできごとが起こり始めた。10歳の誕生日の前日には、学校から帰る途中、突然黒マントをまとった男がジョシュの前に現れ、「父親がお前を守ることができるのも今日かぎり。最後の夜を楽しむがよい」という謎の言葉を残して消えた。その夜、再びパパが夢の中に現れ、「この10年間、お前を敵の手から守ってきたが、次の10年は力が及ばない。お前を、より私の目が届きやすい、古代にかくまうことにする」と言った。
翌朝、学校へ着いても、落ち着かない気分でいるジョシュの耳に、突然海の音が聞こえてきた。教室に海水が満ち、ジョシュは波にのみ込こまれた。
第三章 盲目の予言者
気がつくとジョシュは海の底にいた。何とか水面に浮かび上がり、砂浜へとたどり着いたジョシュに、予言者のティレシアースと名乗る1人の盲目の老人が声をかけた。老人の話から、ジョシュは自分が古代ギリシャにタイムスリップしてしまったこと、パパ(こちらの世界ではパパはルーマルースという英雄だった)は黄泉の国の、そのまた向こうにある“至福の野原”にいること、パパに会うために危険な旅に出なくてはならないことを知った。老人はジョシュに港へ行き、エリスへ向かう船に乗れと言って、1枚のコインと大麦の粒が入った小さな袋を渡して姿を消した。港でジョシュは、やはりエリスへ向かうスタヴロスという少年と出会った。
第四章 ヘラクレス
すぐに友達になったジョシュとスタヴロスは、こっそりとエリス行きの“ドルフィン号”の船室へもぐりこんだ。まもなく船は風を受け順調に走り出した。思わず居眠りを始めたジョシュは、頭に水滴が落ちた気がして、目を覚ました。その液体をぬぐった手を見て、ジョシュは飛び上がった。血だ。思わず大声をあげたジョシュに注目が集まり、無賃乗船がばれて、2人は窮地に立たされた。「もうだめだ」と思ったそのとき、1人の大男が現れて、「子どもたちの船賃は私が払う」と船長に金貨を2枚渡した。
第五章 ネメアのライオン
男はヘラクレスと名乗った。ジョシュの頭に落ちた血は、彼が殺したネメアのライオンの首を入れた袋から滴ったものだった。ヘラクレスは、自分の強さを証明するために、12の偉業を成し遂げたのだが、そのひとつが、どう猛なネメアのライオンを退治することだった。ヘラクレスは、ライオンを退治した証拠に、その首を持って国に戻る途中だった。ジョシュもまた、父の宿敵、レアトッドから身を守るために過去に連れてこられたこと、そして父親に会うために、これから“至福の野原”を目指して、困難を極まる旅をはじめようとしていることを打ち明けた。「大丈夫。みんなが助けてくれる」ヘラクレスは言った。
第六章 英雄たち
船がエリスに着いた。「オリンピックの少年の部に参加する」というスタヴロスをジョシュは笑った。「オリンピックに少年の部はない。参加できるのは大人の男と女だ」今度はスタヴロスが笑う番だった。「女がオリンピックに? 女は会場に入ることさえできないよ」話をするうちに、古代ギリシャと現代のさまざまな違いが明らかになった。古代ギリシャは徹底した男尊女卑の社会だ。ディドが聞いたら怒るだろうとジョシュは思った。
ヘラクレスから聞く、思ったより、ずっと人間臭い、神々にまつわるエピソードも、ジョシュにはとても興味深いものだった。
第七章 オリンピア
競技場へ向かう道中、ジョシュは、道に落ちた馬糞にまみれ、踏みつけられそうになっている子犬を見つけ、マック(馬糞)と名づけて、いっしょに連れて行くことにした。
オリンピアに着くと、スタヴロスは身体を鍛え始めた。円盤投げ、槍投げ、レスリング、馬車レースなど、全種目に参加するとはりきっている。夜になると、ヘラクレスが神々の物語を聞かせてくれた。中でも、ペルセウスが、髪の毛の代わりに頭から無数のヘビをはやし、その目でにらまれたものは、たちどころに石になってしまうというメドゥーサの首を切り落とした話は圧巻で、ジョシュは震え上がった。
近くの川へ水を飲みにいったジョシュの耳に、レアトッドの声が聞こえてきた。「見つけたぞ!」逃げようとしたジョシュは泥に足を取られ、地面に倒れこんだ。「ぼくは何もしていない」「お前は私の宿敵の息子だ。それだけで殺す価値がある」。レアトッドのナイフがジョシュの頬をかすめた瞬間、パパの声が聞こえた。「逃げろ!」。その声にはじかれたように、ジョシュは立ち上がり、ヘラクレスの下へ全速力で逃げ帰った。
第八章 試合当日
オリンピック当日になった。ヘラクレスに勧められ、いやいや参加したジョシュもボクシングで優勝した。スタヴロスはいくつもの競技で大活躍した。彼の活躍ぶりは、すぐに大会主催者の目にとまり、スタヴロスはかねてから夢であったトレーナーとしてオリンピアに残らないかと誘われた。
第九章 いけにえ
次の朝、たくさんの牛がゼウスの像の前へと集められた。ヘラクレスはこれらの牛を、いけにえとしてゼウスにささげるのだとジョシュに教えた。ヘラクレスは祭壇に近づき、銀色に輝く斧を振り上げると、1頭、また1頭と、足元の草むらに血溜りができ、真っ赤に染まるまで牛を殺した。聴衆は興奮して、その儀式を見守りつづけた。儀式が終わり、人影がまばらになった祭壇で、ヘラクレスは父、ゼウスの像に向かって話しかけた。「主よ、私はこれから何をすれば?」「“至福の野原”で休息するがよい」「では、ジョシュアは? だれがあの子を守るのです?」「私の息子、メッセンジャーのヘルメスにお前のかわりをさせよう」。ヘラクレスが祭壇に向かって一礼し、振り向くと、そこにジョシュがいた。ヘラクレスは言った。「われわれは違う道を行く運命らしい。だが、死は終わりじゃない。きっとまたいつか会える」。
オリンピックの競技の全てが終了した。「三人でいるのは、今晩が最後だな」ヘラクレスが言った。心細げなジョシュを、ヘラクレスは神々がきっと導いてくれると励まし、黄泉の国への入り口の場所と、ステュクス川のほとりで行う黄泉の国へ入るための儀式の方法を教えてくれた。それによると、黄泉の国の入り口はシシリーの近く、炎の川と嘆きの川が合流する深い渓谷にあり、そこに入るためには、ステュクス川の川岸に細長い穴を掘り、その中にワイン、ハチミツ、ミルク、水を注いでから、大麦をまき、子羊と黒山羊を殺して、その血を地面に吸い込ませなければならないらしい。「他に聞きたいことは?」というヘラクレスの問いに、ジョシュはレアトッドがルーマルースを憎むようになった経緯を話してくれとたのんだ。もともとレアトッドは偉大な聖人であり、ルーマルースが師と仰ぐ人物だった。レアトッドは自分の知識の全てをルーマルースに授けた。だが、自分の秘蔵っ子が自分以上の人気を博するのを見て、次第に嫉妬を覚えるようになったらしい。
翌朝、3人はそれぞれの道へと別れた。スタヴロスはオリンピアに残り、ヘラクレスは北を、そしてジョシュは黄泉の国を目指して出発した。
第十章 ヘルメスとの旅
今度のジョシュの案内人は、サンダルに羽をつけて空を自由自在に飛び回るメッセンジャーのヘルメスだった。人間嫌いで皮肉屋のヘルメスは、ゼウスにいわれて、しかたなくジョシュをアテネに送り届ける役目を引き受けた。さらに、陽気で、何にでも変身できる太陽神のアポロも現れた。旅の途中、ジョシュは、退屈しのぎにジェスチャーゲームの“シャレード”をアポロとヘルメスに教えた。2人は、そのゲームをいたく気に入り、お返しに、アポロが、毒蛇にかまれて死んだ恋人のエルリディケーを、黄泉の国までつれもどしに行ったオルフェウスの話を聞かせてくれた。オルフェウスは竪琴の名手で、その美しい音色と歌声でステュクス川の渡し舟の船頭とケルベロス(頭が3つで尾はヘビの黄泉の国の番犬)を魅了し、無事に黄泉の国へと入ることができた。アポロは、このエピソードをよく覚えておくようにとジョシュに言い、竪琴をくれた。
アテネの近郊の市場で、犬のマックを捕まえようとしたジョシュは、そばにあった果物屋の屋台に倒れこみ、泥棒と勘違いされて、警察に突き出された。
第十一章 刑務所
刑務所で、ジョシュは独房に入れられた。まもなく闇の中から、レアトッドの声が響いた。
「パパと何があったの?」ジョシュはたずねた。「私は嫉妬から、お前の父親に無実の罪を着せて、殺そうとした。だが失敗し、真実を知った神々によって、社会から追放された。以来、私はルーマルースへの復讐の機会をうかがって、何世紀もの間待ち続けた。ルーマルースが21世紀に人間の妻を娶り、息子が生まれたとき、私はやっとそのときが来たと思った。お前を殺せば、ルーマルースに復讐ができる。お前は英雄の血を引いている」「テムズ川でパパをおぼれさせたのも、あなたの仕業?」「そのとおりだ。お前も一緒に殺せなかったのは計算違いだった」レアトッドはジョシュに飛びかかり、のど元を捕らえてしめつけた。が、その瞬間、牢屋の扉が開き、看守が現れ、ジョシュは危ういところで命拾いした。翌朝、ヘルメスによって牢屋から救い出されると、ジョシュはアテーナーに会うため、パルテノンへ向かった。アテーナーの彫像を眺めるジョシュの耳に、優しい声が聞こえた。「ジョシュア・クロス。旅をつづけるのです。私はヘラクレスやヘルメスのように、旅の道程をあなたと共にすることはありません。でも、いつも見守っています」。「どうやら俺の役目はここまでだな」ヘルメスはそう言うなり、あっという間に飛び去った。
第十二章 サッフォ
食べものを求めて、街をぶらつくうちに、ジョシュは1人の少女が数人の少年に囲まれている場面に出くわした。「この三文文士、女は台所で働いてりゃいいんだ」「ねたんでるのね。あたしがあんたたちより頭がいいから」「男の方が偉いにきまってる……こんなもの!」少年は、少女の手から、なにやら文章を書きつけた紙切れを取り上げ、びりびりと破いた。ジョシュは泣いている少女のもとに駆け寄った。古代ギリシャでは、女は男より劣るものとされ、奴隷のような扱いを受けていた。自分の国では、男も女も平等に扱われる、女の子だって何でもできると言うジョシュに、少女は驚きのまなざしを向けた。「君はディドに似ている」ジョシュは言った。少女の名はサッフォと言った。彼女の祖母は有名な詩人で、サッフォも本を読んだり、文章を書くことが好きらしい。サッフォはジョシュとマックを自分の家に連れていき、食べものを分けてくれた。古代ギリシャの家では、女と男は分かれて住み、食事をするのも寝るのも別だ。はじめて間近に見るギリシャ人の暮らしぶりは、ジョシュにとって驚きの連続だった。「あたしが男だったら」と嘆くサッフォにジョシュは言った。「君の子孫はきっとディドだ。ディドは自由に人生を楽しんでいるよ!あきらめずに書き続けて」。
第十三章 ソクラテスとの問答
シシリーへ向かう船に乗るため、港に向かう途中、ジョシュは街角で熱弁をふるう哲学者に出会った。ソクラテスとその弟子のプラトンだ。「お若いの、どこから来た?」ソクラテスに話しかけられ、ジョシュはしばし2人と問答を楽しんでから、その場を後にした。
第十四章 知恵がもたらす奇跡
ジョシュはピレウスの港にやってきた。船が港を出発すると、ポセイドンの怒りのせいで、すぐに嵐がやってきた。船酔いで船室にひきこもるジョシュの耳に、レアトッドの手下、ヒポドラックスのひづめの音が聞こえた。ジョシュは勇敢にもヒポドラックスが自分の手が届く範囲に来た瞬間を捉え、ヘッドロックで押さえ込んだ。ヒポドラックスは、やがて力つき、口からよだれを流して、だらりと床に横たわった。
再び嵐が訪れた。ジョシュはレアトッドを警戒して、甲板の上で嵐をやり過ごすことにした。だが嵐は激しくなる一方で、巨大な波がジョシュを海の奥深くへとさらった。
海の中では、レアトッドの青白い顔が、不気味な笑いをうかべながら、ジョシュを見つめていた。ジョシュは必死に水をかき、マックやメイトと共に、海岸をめざした。どうにか岸にたどりつくと、遠くに勢いよく流れる水の音が聞こえた。きっとヘラクレスが教えてくれた黄泉の国への入り口にちがいない。音のする方角を目指して進むと、渓谷へ下る険しく狭い道が現れた。
第十五章 黄泉の国へ
ジョシュはその小道を下ったが、切り立った崖からひさしのように張り出した岩の上で、道は突然途絶えていた。もしここでバランスを崩したら、一巻の終わりだ。そこへレアトッドが現れた。逃げ場を失ったジョシュは、間一髪レアトッドのわきをすり抜け、崖を上りはじめた。だが崖の上にはヒポドラックスがいる。上にも下にも行けず崖を水平移動しはじめたジョシュの目に、崖のくぼみにいる白いフクロウが飛び込んできた。フクロウが飛び立った後、ジョシュがくぼみに這い上がると、フクロウの巣の奥に渓谷へ下る狭いトンネルがあった。ジョシュは転げるようにトンネルを駆け下り、ヒポドラックスに追いつかれる前にステュクス川に飛び込んだ。川の対岸に懐かしいティレシアースがいた。レアトッドもジョシュを追って川に入ろうとしたが、三人組の復讐の女神、フューリーズの叫びを聞くと、どうにも前に進むことができず、耳を押さえて、苦悶の表情を浮かべるばかりだった。「いつの日か、必ず復讐を果たす」という捨て台詞を残し、レアトッドは闇の中へと消えていった。ひと安心したところで、ジョシュはうっかりして忘れていた黄泉の国へ入るための儀式を行った。溝を掘り、ワインやハチミツを注ぐ。そして大麦を巻き、最後に勇気を振りしぼって、子羊と黒山羊を殺し、神への捧げものとした。
第十六章 至福の野原
黄泉の国の入り口に立ったジョシュは、渡し舟の船頭、シャロンに、自分を対岸へ運んでくれるように頼んだ。オルフェウスの話を思い出し、アポロにもらった竪琴をかき鳴らし、ティレシアースにもらった金貨を差し出すと、シャロンは快くジョシュの頼みを引き受けた。次なる関門は三つの頭を持つ番犬、ケルベロスだったが、これもオルフェウスにならって、歌を歌ってやると、すっかりおとなしくなった。ジョシュは黄泉の国を抜け、ついに“至福の野原”へとたどり着いた。そこにはまばゆいばかりの銀のよろいを身につけたパパ、ルーマルースが立っていた。「よく来たね」パパは両手を広げ、ジョシュを抱きしめた。「私はお前を誇りに思うよ。この旅で、お前は実に多くのものを身につけた。知恵、力、機転、そして勇気。これから先、再びレアトッドがお前を狙うことがあるかもしれない。だがもう大丈夫だ。お前なら、ぜったいに闘っていける」。いつのまにか、ヘルメスやヘラクレスも現れ、ジョシュの勇気を褒めたたえた。ジョシュはもっとパパと一緒にいたかったが、それは許されなかった。「そろそろ帰る時間だ。帰ったらママを頼むぞ」。
現代への帰り道は、ヘルメスが送ってくれた。翼をつけたヘルメスとともに空に飛び上がり、イギリス海峡を渡ると、まもなくテムズ川が見えてきた。ウエストミンスター寺院、ロンドン塔、ビッグベン、ウォータールー駅、そしてなつかしの我が家! テムズ川の岸で、ジョシュはヘルメスと別れた。「今度オリンポスに来ることがあっても、おれのことは探さないでくれ」そう言うと、ヘルメスはあっという間に姿を消した。
家に帰ると、ママがのんきな声でジョシュを迎えた。どうやら今回の古代ギリシャへの旅は、21世紀のジョシュの生活とは別の次元で行われたことで、ママはそんなことがあったことさえ、まったく気づいていない様子だった。ジョシュはママに今まで聞きたくても聞けなかった質問をしてみた。「ねえ、パパのこと愛してた?」「あなたのパパは、世界で一番ステキなヒーローよ。パパのことを愛していたし、これからもずっと愛しているわ」ママは答えた。

感想
主人公のジョシュは、勉強よりはサッカーが好きで、歴史になんて、これっぽっちも興味のない、ごく普通の男の子だ。そのジョシュが、写真でしか見たことのない父親に会うために、冒険に乗り出し、最後には、勇気と知恵を身につけて、一回り大きく成長をとげるという、ストーリーとしては比較的よくあるパターンの成長物語。だがその物語を、ユニークなものにしているのが、古代ギリシャという設定だ。社会における女性の地位、生活習慣、オリンピック……などなど、古代社会のいろいろな事象を、現代っ子ジョシュの視点から描いた記述は、おもしろく、興味を掻きたてられる。また、よく知られたギリシャ神話のエピソードも、当の伝説の人物たちがジョシュに直接語りかける形をとることで、子どもたちにとって、より生き生きと、親しみやすいものに感じられるのではないかと思う。この物語を読んで、ギリシャ神話がこんなにも楽しく、スリルに満ちたファンタジー作品だったのだと、あらためて知る読者も少なくないだろう。むつかしいこと抜きの、エンターティメント作品。ちょっと長めの物語を読めるようになった、小学校中学年以降の子どもたちにおすすめの一冊だ。

著者について
ランカシャーに生まれ育つ。イタリア、ヴェニスで英語教師をしていたときに、児童文学への興味を持ち始めた。テレビや、子供向けのお芝居の脚本家としても活躍している。本書の続編『Joshua Cross and the Queen’s Conjuror』が間もなく発刊予定。ケンブリッジ在住。

 copyright © 2003 Mizuhito Kanehara

 last updated 2003/12/25