管理者:金原瑞人

Rio Grande Fall(1996)Rudolfo Anaya

『ウルティマ、ぼくに大地の教えを』(Bless Me, Ultima,1972)の著者であり、チカノ文学の父と呼ばれるルドルフォ・アナヤによるオカルト・ミステリー小説。私立探偵サニー・バーカーを主人公とする連作の第二作である。本作で主人公はバルーン・フィエスタ(実際にアルバカーキで毎年行なわれている大イベント)で発生した殺人事件に巻き込まれていくが、その陰には前作Zia Summerに登場したカルト教団のボスであるレイヴァン(英語でワタリガラスの意)の存在があった。前作でレイヴァンとの出会いや老賢人ドン・エリセオ、クランデラ(女呪術師)ロレンツァの導きによって超現実の世界の扉の前に立たされた主人公は、本作でついにその扉を開ける。フィエスタの実行委員会の依頼で事件の解明に乗りだしたサニーは、ベトナム帰還兵でホームレスのディエゴの協力を得て、フィエスタを隠れみのにした大がかりな麻薬の密輸、共産主義撲滅をめぐる極右派の野望、そしてヒヒの心臓移植に情熱を傾けるマッド・サイエンティストの陰謀を探りだす。同時に、サニーとレイヴァンはそれぞれにアメリカン・インディアンの神話世界で大きな力を持つコヨーテとワタリガラスをトーテム(動物守護霊)とする宿敵であったことが明らかにされていく。主人公を巻きこむ事件はベトナム戦争の傷跡、バリーオとよばれるチカノ人街にはびこる貧困と麻薬汚染、国際政治から臓器移植までアメリカが現実に直面している様々な問題の反映である。そしてこれらに立ち向かう主人公サニーとドン・エリセオやロレンツァには一貫して自然と人間の絆を尊ぶチカノの世界観がある。作品は正統派ミステリーの要素とアナヤお得意のマジック・リアリズム的要素が渾然一体となっており、どこか『ツイン・ピークス』や日本の『ウルフガイ・シリーズ』を思わせる。

主な登場人物
サニー・エルフェゴ・バーカー:私立探偵。コヨーテをトーテムに持つ現代のシャーマン。
レイヴァン:サニーの宿敵。テロ活動によって世界の破滅を目論む。ワタリガラスをトーテムにもつ。
リタ・ロペス:サニーの恋人。レストランの経営者。
ロレンツァ・ビリャ:リタの友人。サニーの特殊能力を見出すクランデラ(女呪術師)。
ドン・エリセオ:サニーの隣人。八十歳を越えるかくしゃくたる老人。実は優れたシャーマンでひそかにサニーを自分の後継者と考えている。
グロリア・ドミニク:レイヴァンのいけにえにされたサニーの従妹。
タマラ・ダブロンスキー:かつてレイヴァンが主催していたカルト教団の女性幹部。
ベロニカ・ワージー:グロリア殺害の容疑者。
マッジ・スヴェンソン:アルバカーキ・バルーン・フィエスタの実行委員長。
ジェリー・スタマー:バルーン・フィエスタの理事。
ディエゴ:ベロニカ殺害の目撃者。
マルタ:ディエゴの妻。
クリスティナ:ディエゴの娘。
マリオ・セッコ:麻薬の売人。
ジョン・ギルロイ:CIA出身。マリオのボス。
アリサンドラ・バスタマンテ=スミス:マリオの姉でジャーナリスト。
ウィリアム・ストーン:CIA幹部。
ハワード・パウドレル:サニーの友人でアルバカーキ署の警官。
ガルシア署長:アルバカーキ警察署長。

物語

10月1日。アルバカーキは年に一度のバルーン・フィエスタで賑わっている。主人公で私立探偵のサニー・バーカーは恋人リタの勧めに従って、「清めの儀式」を受けるためにクランデラ(女呪術師)ロレンツァを訪問する。彼は前に扱った事件の犠牲者で従妹のグロリアの霊にとりつかれていたのだが、強い力を持つロレンツァの導きでようやく解放される。そこでビジョン・クエスト(アメリカン・インディアンが自分のトーテムとの出会うための儀式)を体験したサニーは、自分のトーテムであるコヨーテと出会い、と野を駆ける。初めからビジョン・クエストに成功する者は少ない。ロレンツァはサニーの隠された強い力を確信、「このビジョンは始まりにすぎない」と予言する。が、それは同時にサニーを再び事件に巻きこむ「始まり」でもあった。奇妙なことに彼のビジョンは空から人が降ってくる場面で終わっていた。ロレンツァのもとに友人で警官のハワードからサニーあての電話がはいる。グロリア殺人事件の重要な証人であるベロニカがフィエスタの気球から転落死した。他殺らしい。

グロリアの体から血を抜きとって殺したのはシア・カルト(太陽崇拝を旨とするカルト集団)の女王的存在タマラである。ベロニカは自分自身の保釈を交換条件に、彼女の犯罪を法廷で証言することになっていたために消された。ベロニカが殺されたのは保釈金を持って現われた正体不明の女と警察を出た翌日のことだ。この殺人を裏で操っているのはカルト集団の主催者レイヴァンに違いない、とサニーは確信する。彼は核廃棄物を積んだトラックの爆破を阻止しようとしたサニーともみ合っているうちに川に落ちて死んだとされていた。が、死体は見つかっていない。死霊から解放されたのもつかの間、サニーは再び闇の力と戦わなければならないのか。ロレンツァもリタも不吉な予感にとらわれる。
 現場に急行したサニーは、そこに麻薬捜査官が偶然を装ってきていることに気づく。川沿いの湿地帯に落下した死体はまちがいなくベロニカのものだった。遺体は落雷を受けて鋭く裂けた木の幹に突きささり、胸には四枚の黒いカラスの羽根が飾られていた。レイヴァンの名刺がわりというわけだ。気球から人が落ちたという匿名の電話がなければおそらく遺体の発見は遅れただろう。が、他の気球に乗っていた人間で落下を見たものはない。電話をかけたのは誰か?

リタによればロレンツァは胃潰瘍を素手で取るような不思議な力を持っている。もとは看護婦だったロレンツァは西洋医学に限界を感じ、様々な厳しい修業を経て今の力を身につけた。その中には、動物に自在に変身できる力をもった魔術師から伝授された力も含まれているという。彼女の目はフクロウの目だ、とサニーは思う。彼女の力に深い信頼感を抱く一方で、サニーは熱心なカトリックである母から魔女や魔法使いについての恐ろしい昔話を聞かされたことを思いだす。父親は十字を刻んだ弾丸でなければ邪悪な力を倒すことはできないといって45口径のコルト銃を彼にくれた。それは彼の曾祖父で不死身の伝説をもつ保安官エルフェゴ・バーカー愛用の銃だ。以来、サニーはその銃を肌身離さず持っている。邪悪なものと戦うという彼の運命は生まれたときから決まっていたのかもしれない。が、善の力と悪の力はまったく別のものなのだろうか。サニーの腹部にはベロニカによって太陽を形どったシアのサインが刻まれている。これは彼の内にも邪悪な力が宿った徴なのか?

サニーは子どもの頃から、決して人に慣れないコヨーテを間近にみたり、友だちの交通事故や野球チームの勝敗を予言するという不思議な出来事に出会ってきた。人に話せば気味悪がられるためにサニーはこうしたできごとや予感をずっと隠し続けてきた。が、最後にレイヴァンからむしりとったシアのメダルを身につけて以来、彼の力は強くなっていく一方だった。シアのマークはプエブロ・インディアンが用いていた太陽のシンボルだ。レイヴァンはこのシンボルを旗印に掲げた教団を組織、テロ行為を行なおうとしていた。タマラはアメリカの核産業が核の冬をもたらすことを怖れて教団に加わった。彼らの標的は貯蔵施設に核廃棄物を搬入するトラックだった。レイヴァンはトラックを爆破して核汚染とパニックを引き起こそうと考え、その成功を祈る儀式のいけにえにグロリアを選んだのだった。サニーに彼女の霊が取りついてしまったのはかつて恋人であったサニーが殺害の直後に彼女の遺体に近づいたためだった。レイヴァンはトラック襲撃計画を阻止しようとしたサニーにメダルを奪われ、川に落ちて消息を絶った。悪の手からシア=太陽が持っている本来の善なる力を完全に取り戻すためにはサニーにコヨーテの力を呼び覚まさなくてはいけない、とロレンツァは考える。

サニーの秘められた力に気づいていたのはロレンツァだけではなかった。サニーの隣人であるドン・エリセオはゆうに八十歳を越える老人だが、頑強な体と鋭い知性を持っている現代の魔術師だ。彼はロレンツァを信頼し、彼女の導きによってサニーの内なるコヨーテが目覚める時が近いと感じていた。
 シアのメダルは本来なら事件の重要な証拠として警察に提出しなければならないものだった。サニーがこのメダルを手放すことができないのは、タマラの言葉のせいだった。サニーとレイヴァンは兄弟といってもいいほどによく似ている。サニーは黒い短髪の巻き毛、レイヴァンは同じく黒い髪をポニーテールに結っていることを除けば。そして二人の力もまた拮抗するものであることをタマラは直感していた。二人はいわば光と闇、表と裏のような存在だ。タマラはサニーの方に強く惹かれて彼に警告を与えてくれたのだ。レイヴァンは近いうちに新しい力を身につけてサニーの前に姿を現すだろう。そのときサニーを守ってくれるのはこのメダルだ、というタマラの言葉はサニーの心に今もひっかかっていた。

サニーは旧知の友人であり、フィエスタの実行委員であるマッジに電話で呼び出されて、会場に赴く。彼女は彼に「今回の落下は単なる事故である」とマスコミむけの発言を依頼する。有能な私立探偵として地元で英雄視されるサニーの発言は大きな意味を持つはずだ。マッジにとってこのフィエスタは人生の再出発をかけた重要なものだった。彼女はかつてサンタ・フェの美術品に目をつけたカリフォルニアの起業家と結婚し、ギャラリーを経営していた。が、顧客を獲得するために麻薬の取引に手を染め、やがてダーティーな生活に嫌気がさして離婚した。その後もともと好きだった気球に目をつけた彼女の努力のかいあって、地元のお祭りにすぎなかったバルーン・フィエスタは今では大がかりな観光者むけのイベントになっていた。血生臭いゴシップでフィエスタを台無しにしたくないという彼女の気持ちはわからないでもない。が、今回の事件を甘くみるのは危険だ。サニーが依頼を断って帰宅する。マッジは別の証人をしたてあげ、その日の夕方のテレビのニュースで「ベロニカが誤って落ちるのを見た」と発言させた。
 この事件には裏があるらしい。フィエスタに集まった気球乗りのリストをチェックするうちに、サニーは三人の興味深い人物が含まれていることに気づく。コカインの売人マリオ・セッコ。CIA出身で麻薬と引き替えにニカラグアに武器を横流ししていたといわれるジョン・ギルロイ。中米の巨大麻薬組織カリ・カルテルに関する記事を書こうとしたために夫を殺害された元ジャーナリストのアリサンドラ。サニーは手がかりを求めてベロニカの落下現場にむかう。

現場でサニーを待ちうけていたのは、思わぬ攻撃だった。足元に仕掛けられたトラップによって大きな人形にのしかかられたサニーは肝をつぶす。追い打ちをかけるように暗闇から「帰れ」という声がする。その声にむかって「この近くで殺人事件があった。話を聞きたい」と語りかけるサニー。声の主は家族と友人たちとともに段ボールの家に住むホームレスのディエゴだった。元ベトナム兵のディエゴやその友人たちは社会の落ちこぼれとして、警察や権力に不信感を抱き、世間から隠れるように暮らしている。が、真実が自分たちを自由にしてくれるのではないか、という希望を捨てきれないディエゴはサニーに協力する決心をする。
 トラップは彼らなりの自衛手段だった。ディエゴたちは前の晩、上着の支給を受けにクリスチャン・ホームに行く途中に事件を目撃してしまった。黒い気球が他の気球と反対の岸からあがってきたことも、それに乗った男がつれの女を突き落としたことも、男が長い黒髪をポニーテールに結っていたことも。その男の顔半分はひどいヤケドを負ったようにひきつれ、歪んでいたという。レイヴァンに違いない。レイヴァンが目撃者を放っておくはずがない。サニーは彼らを守ろうと考える。

ディエゴたちに事件の一部始終を話したサニーは真夜中になってようやく帰宅した。ロレンツァの「清めの儀式」で手に入れた心の平安は、一日のできごとですっかり台無しになってしまった。キッチンで物思いにふけるサニーを黒い人影がバットを片手に襲う。ふいの敵ともみあうサニーにさらにレイヴァンが襲いかかる。「メダルはどこだ」と銃をつきつける彼の顔の半分は、ディエゴのいうとおり醜い傷跡があった。あわやレイヴァンに撃ち殺されそうになったサニーをドン・エリセオが助けに現われる。レイヴァンらが去ったあと、ドン・エリセオは謎めいた言葉をサニーに告げて帰っていく。「銃でサニーの魂を奪うことはできない。だからレイヴァンはメダルを取り返し、その力でサニーを倒そうとしたのだ」残されたサニーはその言葉の意味を考える。銃を使えば倒せないものはいない。ただし、邪悪な力をもつものは別だ。ドン・エリセオはサニーがレイヴァンと同じ力をもつというのだろうか。メダルにはどんな力が隠されているのか。タマラは自分を「新しいレイヴァン」と呼び、誘惑しようとした。あの言葉はどういう意味だったのか。沸きあがる疑問に矢も楯もたまらなくなったサニーはタマラに電話をかける。夜中にもかかわらず、彼女は待ちうけていたかのように電話にでた。彼女はベロニカの死のニュースを聞き、サニーが自分に会いにくることを予感していた。

「レイヴァンが戻ってきて、自分を殺そうとした」というサニーの言葉を聞いてもタマラは驚かなかった。彼女はすべてを見通しており、サニーに秘密の力を教えることと引き替えに自分と組むことを提案する。彼女はセックスによって神秘の力が授かると信じており、サニーと結ばれることで強い力を手に入れようとしていた。彼女はサニーに若い男を求めて川辺をさまようチカノの伝説の幽霊ラ・ヨロナを思わせた。彼女に導かれて寝室に足を踏み入れたサニーは室内が円形のベッドを中心にシアのシンボルを型取っていることに気づく。メダルを返そうとするサニーにタマラは語る。メダルを奪われた今のレイヴァンにはサニーを倒す力はない。ましてやサニーにはレイヴァンに匹敵する力が秘められている。レイヴァンとサニーはいわば前世からの敵同士だ。このメダルを決して手放すことはサニーの敗北を意味する、と。タマラはレイヴァンとすっかり手を切っていた。彼女のいうとおり、タマラと組めばレイヴァンと戦うのには有利だろう。しかし自分を守るためとはいえ、彼女と組むことはリタを裏切ることになる。サニーにはそれはできなかった。
10
ハロウィーンがやってきた。チカノはそれをオトーニョの祭りと呼び、伝説の悪霊エル・ココを象った人形を燃やす。こうしてその年のいやな思い出を清算し、新たな気持ちで次の季節を迎えるのだ。祭りの夜、ディエゴたちの境遇を話したサニーにリタとドン・エリセオは協力を申しでる。二人はディエゴたちに仕事やとりあえずの住まいを提供する。リタはディエゴとマルタの娘クリスティナを学校に通わせる計画も立てていた。こうしてオトーニョの祭りはディエゴたちにとって文字通り再生の祭りとなった。が、サニーは燃えるエル・ココの顔が一瞬レイヴァンに見え、不吉な思いにとらわれる。タマラがラ・ヨロナなら、レイヴァンはエル・ココだ。彼女が若いサニーを求めたように、エル・ココであるレイヴァンもまた誰かを狙うかもしれないからだ。
11〜12
月曜の朝がきた。ディエゴたちは新生活の準備に忙しい。一方バルーン・フィエスタも佳境に入っていた。その時、マリオ・セッコが黒いバルーンに乗った何者かに狙撃されるというニュースが入る。再びマッジに呼びだされたサニーは実行委員会の理事でヒヒの心臓移植を研究している外科医ジェリー・スタマーに紹介される。これ以上フィエスタをゴシップでかき回されたくない、そのために「今日中に」犯人を捕まえてほしい、そのためならどんな礼でもする、というのが実行委員会の言い分だった。サニーはディエゴたちのために家を建てることを条件に依頼を受け、おとりとして翌朝マッジとともに気球に乗りこむことになる。
 レイヴァンとの対決を前にサニーはロレンツァを訪ね、彼女の助けで再びコヨーテと出会い、自分の守護霊であることを確かめる。ロレンツァはメダルを清め、改めてサニーの胸にかけてやる。
13
サニーがやっかいな委員会の依頼を受けたのはひとつにはディエゴの境遇をしったからだった。彼はベトナムで死体処理班に属し、肉塊と化した兵士の遺体を集めた。危険とやりきれなさで麻薬でもなければやっていられないような仕事だった。アメリカに帰ってからは仕事もなく、精神的な後遺症で酒浸りの日々。そんなある日マルタに出会い、彼は人生をやり直す決心をする。やがてクリスティナも生まれた。が、学歴も特技もない今のままでは子どもに教育も人間らしい住まいも与えてやれない。彼の不運続きの人生はサニーに商売がうまくいかないで苦しんでいる双子の弟アルマンドを思いださせた。
14
翌朝、ふたりを乗せた気球が飛ぶ空に銃声が轟いた。黒い気球からサニーたちをめがけて銃弾が飛んでくる。が、プレートにあたった感触は弾が地上から飛んでくることをサニーに教えた。近づいた黒い気球をみると、ホウキをもったマネキンが乗っているだけ。川べりに目を遣ったサニーはあわてて茂みに隠れる人影を発見する。サニーの気球はその人影を追って川べりに着陸する。続いて同じく着地した黒い気球は自動的に爆発して炎上し、手がかりは消えてしまう。やがて到着する二台のヘリ。一台は地元のテレビ局の、もう一台のヘリはFBIものだ。が、奇妙なことにそこにはニカラグア出兵の指揮をとったCIAのウィリアム・ストーンが乗っていた。
 サニーはマッジを家まで送ると、ディエゴと川べりに引き返し、レイヴァンが気球を膨らませたと考えられる辺りを捜査する。そこには黒いカラスの羽根とビニール袋にはいった良質のコカインが落ちていた。サニーとの戦いで顔に傷を負ったレイヴァンは痛み止めに使っていたコカインが欠かせなくなってしまったらしい。そのコカインにはコロンビアの麻薬カルテルがからんでいるとディエゴは推理する。彼は前の週に町で仕事を探していたとき、「大きな船荷」が今週到着するらしいという情報をつかんでいた。コロンビアのカリ・カルテルからメキシコのフアレスに送られるはずのコカインが何者かによって買収され、アルバカーキに届くというのだ。大きな船荷に警察がまったく無反応というのは奇妙な話だ。考えられる理由は二つに一つ。地元警察がワイロを受けとっているか、国家レベルのトップ・シークレットとして地元警察を通さないか。心から町を愛している警察署長のガルシアを買収することは不可能だろう、とサニーは考える。ディエゴはさらなる情報を求めて町のホームレス仲間に聞き込みを始める。
15
サニーは元ジャーナリストのアリサンドラに会い、殺害された麻薬の運び屋マリオ・セッコは彼女の実の弟であることを知る。アリサンドラは彼を通してコロンビアの麻薬カルテルに関するスクープをつかんだのだった。ジョン・ギルロイはかつてリベルタードという極右グループを仕切っており、ニカラグアのコントラに麻薬と引き替えに密輸するパイプ役を果たしていた。そしてその黒幕が当時中米問題を担当していたストーンだった。彼らは共産主義撲滅を大義名分にニカラグアを混乱に陥れ、アメリカの軍事力を動員して政権を掌握しようと目論んでいたのである。ニカラグアの革命が終決した今となっては、武器の密輸を正当化する政治的理由はない。彼らは単に麻薬で私腹を肥やしているだけだ。もしアリサンドラの本が出版されればセッコは逮捕され、すべてを白状してしまうかもしれない。そう考えたギルロイはレイヴァンを使って彼の口を封じた。彼女はスクープをもみ消すためにストーンが前夫を殺したこと、その後自分は再婚してテキサスでひっそりと暮らしていることなどをサニーに語り、一枚の写真を見せた。すでに色あせかけたその写真にはコロンビアのメデリン・カルテルのビルの前に立つ金髪で大柄の男が写っている。彼女はそれがストーンだと信じている。もしサニーがギルロイやストーンの悪事を暴くことができれば、平和な生活が戻り、前夫の無念も晴らせる。そのために役立てて欲しい、とアリサンドラは写真をサニーに託す。
16
サニーはディエゴから、近々行なわれるらしい大量のヘロイン密輸にギルロイが関与しているらしいという情報を知らされ、さらなる情報をつかむために追跡を開始する。空港から国境の町エルパソへ、さらにタクシーでメキシコのフアレスにあるマフィアの倉庫街コロニア・デ・ロス・ムエルトスへ。おそらくここで麻薬が取引され、コカインがアルバカーキに送られるのだ。運転手マルコスに警察への連絡を頼むと、サニーは倉庫の裏手にある非常口から侵入する。そこで彼がみたのはギルロイとレイヴァンの姿だった。
17
そのとき常にギルロイの身辺をうかがっていた二人組が現われる。実は彼のボディーガードである二人をFBIだと思いこんだサニーは、いとも簡単に捕まってしまう。ギルロイとレイヴァンは倉庫に数キロの麻薬を残して火を放ち、麻薬がすべて炎上したと見せかけて世間をあざむこうとしていた。ギルロイは警察の目をそらすためにサニーを監禁して倉庫に火を放つ。焼死体に警察の目をそらせ、そのすきに取引を無事に終わらせるという計画だ。煙と炎にまかれたサニーは危機一髪のところを心配して戻ってきたマルコスに救出される。
18
火曜日の朝。ディエゴから川沿いでジープのタイヤの後を発見したと報告がある。おそらくレイヴァンが気球を運んだときのものだろう。一方マッジからは、ギルロイに扇動された人々が気球で飛んでいる、と電話が入る。事件の真相を知らされていない彼女は、無差別テロによる新たな犠牲者がでることを怖れている。サニーは彼女のもとに出向き、今回の事件には国家レベルの麻薬取引が絡んでおり、無差別テロの可能性はないと打ちあける。彼女によればダーティーな過去を持つギルロイのフィエスタ参加については実行委員会でもかなりもめたそうだ。それが理事のスタマーが協力にプッシュし、新しい会場にと新し土地が寄付されることで彼の参加が決定したという。スタマーとギルロイの関係は?
 マッジと別れたサニーをショックな出来事が待ちうけていた。リタとディエゴの娘クリスティナがレイヴァンに誘拐されたのだ。そのとき、ロレンツァから電話が入る。リタがトラブルに巻きこまれる夢をみたという。それはレイヴァンがリタを気球に乗せている夢だった。気球は屋根にシアのマークがついた家に到着する。場所はエディス通りの北。家のそばにはトラックが止まっている。鮮明な夢の記憶を頼りにサニーとロレンツァはヘリによる捜索を開始する。
19
ヘリの操縦を買って出たマッジをロレンツァは拒否する。彼女はサニーの力の妨げになるという。サニーの操縦で捜索が開始される。ロレンツァは記憶を頼りに夢で見た場所を捜しだすが、逆に待ちうけていたレイヴァンによって二人とも捕まってしまう。二人はレイヴァンの気球に縛られたまま乗せられた。気球は空高く舞いあがる。警察は気球に乗っているのはレイヴァンだと信じ、攻撃してくる。このままでは撃ち落とされるか、どんどん上昇して酸欠と寒さで死んでしまうかのどちらかだ。二人は協力してどうにか気球の上昇を食いとめ、遠く離れたアリゾナ州のメサに不時着する。
20
辛うじて助かったものの、ロレンツァは不安を消し去ることができない。レイヴァンが神出鬼没なのは彼に協力者がいるからではなく、霊の世界に通じているためだ。レイヴァンはサニーを好敵手とみなし、戦いを挑んできているのだ。サニーはいつかその挑戦を受けなければいけない。
 フィエスタ会場に戻ったサニーをまたもやマッジが待ちうける。彼女は今回の殺人事件は麻薬の取引がからんでおり、一般人には危害は及ばない、と決めつけ、明日には気球を盛大に飛ばすつもりだという。事の重大さを無視した委員会のやり方にサニーは怒りを感じ、手がかりを求めて夜の町をさまよう。
21
サニーはマッジがギルロイの愛人であるという証言を得る。マッジは自分が警察にマークされていることに気づき、調査を依頼することで自分がフィエスタに関してはあくまで被害者だということをアピールしようと考えたのだとサニーは推理する。彼はマッジ邸に出向き、彼女の口から真相を聞きだそうとするが、マッジはギルロイとの関係は認めるものの事件との関係は否定する。彼女はギルロイが前の夫がフアレスからの麻薬を買っていた頃からの知り合いで、当時のダーティーな仕事をネタに自分を強請っていたのだと主張する。
22
ギルロイにあって真相を確かめようとするサニー。が、ホテルの部屋で彼を待ちうけていたのはバスタブに血まみれで横たわるギルロイの遺体だった。まだかすかに温かい。喉を切られたための失血死だ。傷が正確で抵抗のあとがない。顔見知りの犯行だろうと、考えるサニーに突然レイヴァンが襲いかかってくる。彼はサニーと駆けつけた警察とに追い詰められながら、ホテルの吹き抜けを軽々と飛び降りて行方をくらます。
23
水曜日。フィエスタの会場は無差別テロの不安から解放されてにぎわう。多くの人はギルロイが死んだことで、安全が戻ってきたと考えているようだ。が、サニーは麻薬の闇取引が行なわれていることを直感する。直前に運びこまれた荷物のなかに気球用の予備タンクがある。プロパンガスが入っているため、密閉してあり、中身は麻薬捜査犬でもわからない。サニーは気球に詰まれたタンクのなかにバルブのまわりが白い粉にまみれているものを発見する。バルブを開けると、中身は案の定コカインだ。サニーはその気球に乗ることになっていたダラス出身のボビー・リーからリタの情報を得ようとする。が、彼は単に金で雇われたその日限りの運び屋。手がかりは依然としてつかめない。
24〜26
麻薬が見つかったことで事件は一見解決したかに見えた。気球は次々と朝日を浴びて空に飛びたつ。が、サニーは話がうまく運びすぎていることに違和感を覚える。FBIの姿が今日に限って見当らないのも妙だ。怪しく思って他のタンクをあけると、残りはすべて本物のプロパンガスだった。ボビーはおとりにすぎなかった。大量の麻薬はすでにどこかに運び去られてしまった。そしてリタの行方も依然としてつかめない。サニーは真相を求めてウィリアム・ストーンと接触、ギルロイに関する情報をおとりに彼を呼び出す。が、約束の教会に現われたストーンはレイヴァンの居所を知らなかった。レイヴァンは麻薬を横取りして行方をくらましていたのだ。ストーンもまたレイヴァンについての情報がほしくてサニーに会いにきたのだった。
 レイヴァンの足取りがつかめないサニーはロレンツァに助けを求める。彼女はビジョンでリタがどこかの墓地にいること、危険な状態であることを知る。もはやリタは人質ではない。レイヴァンは儀式によって彼女を自分の仲間にするつもりだ。一刻の猶予もならない。サニーはロレンツァの助けを借り、レイヴァンと戦う準備を整える。
27
サニーはロレンツァと共にビジョンで見たレイヴァンの隠れ家へと向かう。山中の墓地を自分の儀式のための聖地に選んだレイヴァンは、結界を張り、死者の迷える魂を糧に破壊のための儀式の準備を整えている。彼にとって太陽信仰とは終末を意味していた。アステカの神話にある太陽の死と世界の終末を信じ、第五の太陽の時代にあたる今の世界を滅ぼし、次の世界を自分の手中に治めることが彼の最終目標だった。終末をおそれるタマラにはそれが理解できなかった。だから彼女は破壊からこの世を守る力をもつサニーに惹かれたのかもしれない。
 レイヴァンの隠れ家に就いたサニーは先祖譲りのコルト銃に十字を刻んだ弾をこめる。が、ロレンツァはここで威力を発揮するのはコヨーテの力だと、自分の調合した薬草の入った守り袋を渡す。サニーが守り袋を掲げてコヨーテを呼ぶと、森のコヨーテたちが姿を現す。サニーはレイヴァンの結界を様子を伺いながらじわじわと追いつめていく。自分を追ってついにここまでやってきたサニーを見て驚きを隠せないレイヴァン。彼はサニーが自分と同じトーテムの力を使うことのできる魔術師だと知り、闘争心を高める。争う二人。戦いは刃物を持つレイヴァンが優位に見えた。が、そこに現われたロレンツァがサニーのコルト銃でレイヴァンの胸を撃ち、サニーを救う。あおむけに倒れ、動かなくなったレイヴァンからメダルを取り戻すと、サニーはリタたちを救出する。そのわずかなすきにレイヴァンの死体は消えていた。ふと見ると、メダルの中央に弾のあたった跡がある。メダルがレイヴァンの命を救ったのだ。
28
ディエゴから新しい情報を得たサニーはマッジに会いにいく。ギルロイが殺害された日、ホテルでマッジを見かけたという。彼女とスタマーは手を組んで、邪魔になったギルロイを殺害したのだった。鮮やかな首の切り口は外科医であるスタマーによるものだ、とサニーは確信する。ヒヒの心臓移植に膨大な研究費を必要とするスタマーはふとしたことから知ったマッジの過去を利用してギルロイに近づき、フィエスタを利用して麻薬密売の利益を得ていた。アリサンドラの写真に写っていた麻薬カルテルの大物と関係のある人物は実はスタマーだった。二人が偶然似ていたことから、アリサンドラがストーンだと思いこんでいたのだった。が、いずれにせよ、陰で糸を操っていたのはCIAで、医療技術の交換を名目にスタマーをコロンビアに送り、取引きの仲介をさせていた。アリサンドラの写真はその時に撮られたものだった。サニーはマッジにアポをとらせ、スタマーに会いにいく。
29
スタマーはかつて有能な若手医師として将来を嘱望されていたが、人工心臓の研究に失敗、アルバカーキで新たに心臓移植のための研究所を設立した。が、心臓移植はドナーが頼みで、期待したような名声をスタマーに与えてはくれなかった。彼はヒヒを使った移植に目をむけるが、周囲の大反発を買って孤立し、今もひとりで研究所にこもり移植の研究に没頭していた。ヒヒの悪臭がこもる研究所にサニーは単身で乗りこむ。悪臭とやせて気がたったヒヒたちの様子は、スタマーがしばらく麻薬の取引に忙しくて研究をおろそかにしていることを物語っていた。と、どこかでドアの開く音がして、サニーは後頭部をしたたかに殴られ、気絶する。ふたたび目覚めた彼は手術台に縛られていた。彼を見つめるマッジとスタマー。スタマーはサニーを使って念願の移植手術の実験をしようとしていた。彼の口からレイヴァンが麻薬で得た利益でロシアの核弾頭を買いつけるためウクライナに向かっていることを知らされる。
 800ボルトの高圧電流がサニーを襲う。そこに飛びこんできたのはなんとタマラだった。彼女はスタマーの喉を掻き切って殺し、虫の息のサニーの姿がぶざまだといってとどめをさそうとする。が、警察のサイレンを聞き姿を消してしまう。
30
遠のいていくサニーの意識の中に次々と姿を現すロレンツァ、リタ、母親、ドン・エリセオ。彼らはサニーを励まし、コヨーテの力を使えと声をかける。サニーは自分の心臓が花のように開き、鮮やかな血の流れとともに魂が離れていくのを感じていた。これがロレンツァやドン・エリセオのいっていた魔術師の飛ぶ力なのか。彼の頭のなかではリタたちが死神とサニーを争っている。サニーは無意識にロレンツァのくれたコヨーテを呼ぶ守り袋とシアのメダルの手をのばした。と、コヨーテが現われ、サニーに力を吹きこむ。魂が戻り、目をあけるサニー。ひどい痛み。言葉がでない。体も動かなかった。エリセオが声をかける。「おまえの名前は?」サニーは全身の力を振り絞ってこたえる。「サ・ニー」「おまえはどこに住んでいる?」「ノボ・メヒコ(ニューメキシコ)」ニューメキシコの大地の力とプエブロ・インディアンの信じる名前が持つ神秘の力が働いた。サニーは愛する人々の住む世界に戻ってきたのである。

 copyright © 2003-2004 Mizuhito Kanehara

 last updated 2004/3/8