管理者:金原瑞人

Shaman Winter(1999) Rudolfo Anaya

サニー・バーカー・シリーズ第三作。前作で高圧電流をあびた後遺症によって下半身がマヒしたままのサニーはまたもや宿敵レイヴァンに戦いを挑まれる。サニーもまた自分と同じトーテムの力を持つ魔術師だと知ったレイヴァンは新たな方法でサニーに挑戦してきた。それは彼の夢の世界に入りこみ無意識の状態にある彼の過去を消滅させ、血統ごと彼の存在を根絶やしにしてしまおうという不可思議な陰謀だった。同時にレイヴァンは現世ではキリスト生誕劇に出演する少女たちを誘拐する。それは厳しい冬至の寒さを乗り越えて新しい季節の始まりを待ちうける人々の希望を踏みつけにするレイヴァンの冷酷な企みであった。自分の意志ではままならない夢の中で戦うことは前回より高度な世界で戦うことを意味する。が、強い意志と正しい知恵の力によって夢を意のままに操ることができれば勝利は不可能ではない。サニーは戦いの中でそうした力を身につけ、レベル・アップしたシャーマンとなる。それは同時に彼の偉大な導師ドン・エリセオの死を乗り越えて彼の知恵と力を受け継ぐことでもあった。
自然の反映であるトーテムの力より強いものは夢の力であり、そこには過去からの英知の集積と限りなく円環する時の流れがあるという本作品独特の哲学は、口承文学に深く根ざしたチカノならではの世界観であり、同時にユング心理学に傾倒した経験を持つアナヤの集合無意識論の反映といえる。また、サニーの見る夢は常に征服される側の血塗られた歴史の「物語」であるが、これは常に勝者の立場から語られてきた「歴史」が征服者の立場を正当化するための恣意的な「物語」に過ぎないというポスト・コロニアル的な歴史観に立ってチカノ民族独自の歴史を語ろうとしたアナヤの新しい試みであるともいえる。サニーの夢をたどることでチカノの歴史を学べる仕掛けになっている点もおもしろい。こうした点で本作品はアナヤ的哲学の集大成的な側面を持っている。導師ドン・エリセオの死によるシャーマンの力の継承という展開はBless Me, Ultimaを思わせ、サニーがマヒを克服して過程はTortugaを思わせ、初期の三部作で重要な役割を果たしていた夢が作品中で大きな位置を占めている点も興味深い。が、こうした理屈を抜きにして、作品を第一作から続く核をめぐる陰謀に加えサイバー・スペースやエボラ出血熱といった現代的な素材を縦横無尽に扱った娯楽作として楽しむことももちろん可能である。サニーたちを恐怖に陥れたプルトニウムとエボラ菌はレイヴァンとともに行方不明のまま作品が終わっており、おそらくは最終作になる次回作でよりパワー・アップした戦いが展開されることが期待される。また、リタに深い愛情を抱く一方で神秘的なロレンツァに惹かれるサニーの心情も描かれ、リタの流産という悲劇もあいまって主人公をめぐる三角関係の行方も見逃せない。

主な登場人物
サニー・エルフェゴ・バーカー:私立探偵。コヨーテをトーテムに持つ現代のシャーマン。
レイヴァン:サニーの宿敵。テロ活動によって世界の破滅を目論む。ワタリガラスをトーテムにもつ。
リタ・ロペス:サニーの恋人。レストランの経営者。
ロレンツァ・ビリャ:リタの友人。サニーの特殊能力を見出すクランデラ(女呪術師)。
ドン・エリセオ:サニーの隣人。八十歳を越えるかくしゃくたる老人。実は優れたシャーマンでひそかにサニーを自分の後継者と考えている。
アンドレ・バーカー:オニャーテ遠征時代(16C)のサニーの祖先。
アウル・ウーマン:その妻。プエブロ族の巫女で「夢の暦」の持ち主。
エルナン・ロペス:プエブロ反乱時代(17C)のサニーの祖先。
カリダード・デ・アナヤ:その妻。
リサンドロ・ハラミーオ:タオス・プエブロの乱時代(17C)のサニーの祖先。
エピファナ・アラゴン:その婚約者。
パンチョ・ビリャ:20cに実在した革命家。
ソルダード:その妻。
コンスエロ・ロメロ:アンドレとアウル・ウーマンの血を引く十六歳の少女。
カタリナ・ガルシア:リサンドロとエピファナの血を引く十六歳の少女。
カルメン:十六歳の少女。
セレスト:十六歳の少女。
マット・パイス:アルバカーキ担当のFBI局長。
ケイシー・ドイル:FBI長官。
レイフ・エリック:ロス・アラモス国立研究所所長。
アレクサンドロ・チェルネンコ:ロシアからサンディア研究所にスカウトされた科学者。
サイバー:失踪した父親をネット上で探す高校生。

物語
第一部 シャーマンの夢
1
12月18日の朝、サニーは「アウル・ウーマン!(アウル=フクロウ)」と叫ぶ自分の声で目覚める。マッド・サイエンティストのスタマーに高圧電流で殺されかけた彼は、ドン・エリセオにもらった犬のチカを友に全身マヒの治療に専念していた。生死の境からよみがえった彼は以来妙にリアルな夢をみるようになっており、ドン・エリセオの勧めに従って夢日記をつけるようにしていた。昨夜の夢のなかでサニーはアンドレ・バーカーという若い兵士だった。時は1598年。アステカを滅ぼした征服者エルナン・コルテスのひ孫にあたるフアン・デ・オニャーテが先住民の改宗とスペイン領の拡大の使命を帯びて組織した現在のニューメキシコへ遠征を開始した年である。遠征隊が途上で出会ったプエブロ・インディアンは友好的だった。アンドレは水浴中に年若い巫女のアウル・ウーマンと出会い、運命の力によって夫婦となる。彼女はアステカから持ち帰った「夢の暦」とよばれる黒耀石の鉢を持っており、その表面に刻まれた文様を解読することで一族の未来に平和をもたらす重要な存在だった。彼女はこの鉢の表面に自分を現すフクロウとアンドレを現す牡牛(バーカーはスペイン語で牡牛を意味する)が並んで描かれていることを知り、彼を夫に選んだのである。二人が結ばれ女性のいない遠征隊に彼女がついていくことは、新しい土地におけるチカノの繁栄を意味する。ふたりはいわばニューメキシコのアダムとイブだった。ところが二人の婚礼の日、あとに四枚の黒い羽根を残して、アウル・ウーマンは「空からきた悪霊」にさらわれてしまう。プエブロのシャーマンはアンドレに言う。花嫁を取り戻せ。彼女が戻らなければ未来はない、と。
2
サニーは夢日記を綴っていたペンを置き、物思いに耽る。彼の体の機能は順調に回復してきていた。ただ足だけがまだほとんど動かない。誰もが彼の回復に全力を尽くしていた。ロレンツァは薬草の力で彼を癒し、ドン・エリセオは物語を語ってきかせた。リタは毎日車椅子の彼を車でリハビリに連れていく。彼女の料理と愛撫も彼に生きる力を与えた。一人の時はサニーは学生時代からためてあった本をむさぼり読んだ。学生時代の彼は文学と歴史を学び、教師を目指していた。読み進むうちにサニーは自分の夢とニューメキシコの歴史がいつも結びついていることに気づく。ドン・エリセオによれば夢は霊的な世界の入り口であり、同時に過去への入り口でもある。昨夜の夢は眠る前にオニャーテについて書かれた本を読んだからだろう。なぜアウル・ウーマンを夢でみたときあんなになつかしく感じたのだろう。自分とアンドレ・バーカーの関係は?そして彼女が夢のなかでレイヴァンに連れ去られたことは何を意味するのだろう。
 その時サニーに依頼の電話が入る。十六歳の娘が忽然と消えた。彼女はコンスエロ・ロメロ。アルバカーキ市長の娘だ。ベッドの上に四枚の黒い羽根が残されていた以外には何の手がかりもないという。夢との関係を直感したサニーは弟で中古車ディーラーのアルマンドから車椅子が積めるバンを買い、事件の解決に乗りだす。
3
ロレンツァに伴われたサニーは図書館で自分の家系を辿る。今まで自分が読んだ本にはアンドレ・バーカーという人物は登場しなかった。もし本当にアンドレ・バーカーとアウル・ウーマンが自分の祖先なら、彼女がさらわれたことでバーカー家の家系は絶えるか少なくとも変わってしまい、今の自分は存在しなくなってしまう。果たしてアンドレ・バーカーは実在した。知りもしなかった人物の夢をみるなんてことがあり得るのか?さらにオニャーテ遠征に関わった人物を調べていくうちに、サニーはかつてレイヴァンが使っていた偽名アントニオ・パハロと同姓同名の人物を見つける。彼はサニーの家系を探り、何らかの方法で自分の名前を歴史上に記載させてサニーの過去に介入したのだ。ドン・エリセオによればひとりの人間が存在するには家系の源としての四人の「祖母」が必要である。レイヴァンはその「祖母」たちを一人残らず誘拐して自分のハーレムを作り、サニーの存在を抹殺しようとしていているのではないだろうか。だとすればまた新たな誘拐が夢と現実の両方で起きるに違いない。
4
レイヴァンはパハロの名でオニャーテ隊に潜入し、アンドレ・バーカーの動向をずっと見張っていた。そしてアウル・ウーマンが現われるや否や行動を起こしたのである。さらに家系を調べたサニーは市長のロメロ氏が自分と遠い親戚であることを知る。サニーは歴史の本を大量に入手し、自分の存在を賭けたレイヴァンとの戦いに備える。サニーは歴史書を読むにつれ、征服者たちが先住民とその文化に対して行なってきた横暴を知る。1610年首都がサンタフェに移される頃にはフランシスコ派の伝道師たちの宣教熱は高まり、プエブロの宗教建築を次々と破壊、メディシンマンたちを処刑していった。こうした暴挙の陰にもレイヴァンの存在があるに違いないと感じたサニーは戦う決意を一層固める。
 ロメロ家に到着したサニーは、コンスエロがクリスマスの降誕劇で悪魔に見入られた隠者にあやうくさらわれかける羊飼いの娘ジラを演じることになっていたこと、その練習から戻った夜にさらわれたことを知る。
 ロメロ家をでたサニーにロスアラモスの国立研究所のレイフ・エリックから至急会いたいと電話が入る。
5
研究所でサニーとロレンツァを出迎えたのは所長のレイフ・エリック、FBI捜査官マット・パイスと長官ケイシー・ドイルだった。FBIはつい最近ウクライナからニューヨーク経由でニューメキシコに入ってきた不法プルトニウムを奪取した。そのプルトニウムはレイヴァンが例のコカインを売りさばいて入手したものらしい。今回のレイヴァンはテロ集団アヴェンジャーズと組んでおり、共産圏で失業中の原子力研究者が協力すれば核爆弾製造も不可能ではなかった。彼らは核爆弾を使ってアメリカをパニックに陥れ、軍隊を出動させて軍事独裁政権を取ることを目論んでいるらしい。レイヴァンはプルトニウムを奪取されるときに、サニーにあてたと思われるメッセージを残している。彼の挑戦を受けてレイヴァンを捕まえ、核テロの危険性の芽を永久に摘んでほしい、というのがエリックらの依頼だった。レイヴァンのメッセージとはプルトニウムが入っていた奇妙な鉢であるという。この鉢は黒地に古代風の美しい文様が刻まれたもので、そのなかにサニーを表す太陽とバーカーを表す牡牛の文様が見つかっている。さらに不思議なことにその鉢は鉛でできているわけでもないのに放射線を一切外界に洩らしていなかったという。サニーはそれを聞いてアウル・ウーマンの「夢の暦」だと直感する。サニーらがその鉢を見に研究所へ行ってみると守衛が三人とも殺され、鉢に入ったプルトニウムが消えていた。緊急事態にエリックは研究所の閉鎖を宣言する。
 固く口止めされたサニーとロレンツァは研究所を出て今は国定公園になっているバンデリア遺蹟に向かう。ここはかつてプエブロ・インディアンの聖地であり、山の頂きには自然神である雨の神カチーナが祀られていた。冬はカチーナに雨ごいの祈りを捧げる時期だ。レイヴァンは山を汚して自然界の聖なるサイクルを破壊しようとしているのだとロレンツァは考えた。
6
バンデリアに到着したサニーは「祈りなさい」というアウル・ウーマンの声を聞く。彼女はどこかで生きていて、サニーを守ろうとしているのだ。キャニオンに出るとロレンツァは殺された三人の守衛の霊を弔い、キャニオンに住む動物霊たちに挨拶をし、カチーナに祈りを捧げる。サニーは自然の力が全身にみなぎるのを感じる。ロレンツァがひとりで祈るために姿を消すと、雲が晴れ、祈りを捧げるサニーに「夢の暦」をもったアウル・ウーマンとカチーナ神のビジョンが訪れる。と、突然強い風が吹き、雪をはらんだ黒雲が空を覆い尽くす。そこにレイヴァンの姿があった。二人はもみあうが、足の不自由なサニーはあっという間に彼に押さえつけられ、メダルを奪われる。と、ロレンツァが駆けつけ、落ちていたサニーのコルトでレイヴァンの手を撃ち抜く。メダルとアウル・ウーマンの「夢の暦」がサニーのもとに戻ってくる。
7
「夢の暦」の文様を調べるサニーは、これがメキシコ・シティーの国立人類学博物館にある「太陽の暦」と対をなすものではないか、と考える。「夢の暦」の表面にはアステカ風に混じってエジプトの古代文字を思わせる文様が認められる。遠い昔に古代エジプト人が海を渡ってアメリカ大陸にやってきたという説がある。しかしサニーとロレンツァは夢という集合無意識がふたつの遠く離れた文化に共通点を持たせているのではないか、と考える。
 帰宅したサニーは疲れて眠りに落ちる。その直前、ロレンツァはメダルとコルト銃をサニーに持たせる。ドン・エリセオも彼に「夢をひとつの物語だと思え。自分の夢をレイヴァンから守れ」と言い渡す。二人が案じた通り、サニーはふたたび夢の世界に迷いこむ。1680年のタオス。スペインが派遣した総督オテルミンとの話し合いが決裂し、プエブロ対スペイン人の戦いが始まる。世に言う「プエブロの反乱」である。この乱は伝統信仰の改宗を強制されたプエブロが予知能力をもったポペを指導者に起こしたものだった。この時オテルミンの館には若き兵士エルナン・ロペスとの婚礼を控えたカリダード・アナヤが滞在していた。サニーの「祖母」のひとりであるカリダードはスペインからの援軍を装って館に潜入したレイヴァンに誘拐される。目の前で繰り広げられる光景をサニーはただ凝視するばかりで、何もすることができない。結局オテルミンらスペイン人はサンタ・フェを放棄し、去っていく。プエブロはスペイン人が残した文化の足跡をことごとく破壊し、土に埋め、勝利を祝う。が、シャーマンたちは予言した。彼らはこの地で期待した何ものも手に入れることはできなかった。彼らはきっと戻ってくる。なぜなら彼らは祖先の亡骸をこの地に埋めているからだ、と。

第二部 冬至
8
夢の中での自分の無力さにうちひしがれてサニーは朝を迎えた。沈んだ気持ちに追い打ちをかけるようにエリックから口止めの電話がかかる。彼はドイルに対テロ部隊の出動を要請し、事件の解決にあたるつもり。再び図書館に連絡をとったサニーはロス・アラモス、レイフ・エリック、ニューメキシコ州の国民軍についての資料を請求すると、ちょうど訪ねてきたドン・エリセオと朝食をとる。サニーは昨夜の夢の中で自分がいかに無力だったかを訴える。そのサニーにドン・エリセオは、夢を思いのままに操るようになるには時間がかかる。もっと力をつけ、ドラマを描くように自分が登場する夢の設定を心がけることをアドバイスする。二人の話題は「夢の暦」に移る。ドン・エリセオは表面の文様を辿りながら、古代トルテカ文明から現代のチカノまで脈々と続く太陽の死と世界の再生のドラマをサニーに語って聞かせる。太陽が死ぬことなしには新しい時代は始まらない。太陽の死は絶望ではなく、希望だ。なぜなら古い太陽の死によって人間は新しい世界を作り上げる責任を委ねられるのだから。世界のあちこちに偏在する世界創造の神話はこのプロセスを我々に説きあかしてくれる。夢はこの神話に描かれた破壊と再生の聖なる力と触れあうためのものだ。が、その力を知ることはむずかしく、時に人間はこれを否定して破壊のほうに心が傾く。レイヴァンはそのひとりだ。彼の破壊行為をとめるには「夢の暦」に刻まれたたくさんの夢の名前を知り、そこにこめられた意味と力を探る必要がある、と言い残してドン・エリセオは帰っていく。
9〜10
サニーに新たな誘拐を告げる電話が入った。タオスに住むガルシア家の十六歳になるカタリーナが消えた。彼女はポサダ(メキシコが発祥の、クリスマスを祝うろうそく行列)で聖母マリアを演じることになっており、その練習から帰った直後に姿を消したらしい。サニーはこのところ体調がすぐれないリタを気遣いつつ、ロレンツァとタオスに向かおうとする。と、パイスから電話が入り、驚くべき事実を伝える。レイヴァンの乗り捨てたトラックから彼とエリックが連絡をとっていたらしい証拠が見つかったというのだ。エリックはサンディア研究所にいる原子力物理学者チェルネンコとも関係があった。チェルネンコはCIAに買収されてアメリカにくる前にウクライナで核物質の輸送を担当しており、スターリン時代に両親を殺されたことからロシアに恨みを抱いていた。レイヴァンが手に入れた不法プルトニウムもおそらく彼が仲介したものだろう。チェルネンコはロシアからスカウトされてきた時、たくさんの「危険物」を私有物として研究所に持ち込んでいると目されている。レイヴァンのプルトニウムがここに持ち込まれていたとしたら、まさに灯台もと暗しだ。テロのための核爆弾を警戒が厳重なサンディア研究所で製造するとはこの上なく皮肉で危険だ。もし研究所で爆発があれば他の核物質とのチェーン・リアクションによっ大惨事を引き起こしてしまう。パイスはサニーにレイヴァン逮捕の協力を依頼する。
 サニーとロレンツァは事件解決のため、まずタオスのガルシア家に向かう。コンスエロとよく似た状況、よく似た手口。レイヴァンはまるでゲームを楽しむように少女たちを誘拐している。キッチンの裏口はいつものように四枚の黒い羽根が残されていた。
11
タオスの保安官は、今回のカタリーナの誘拐を米墨戦争の時に惨殺された知事ベントの亡霊のしわざだと語る。タオスは1847年に再び侵略者とプエブロの対決の場になっていた。マニフェスト・デスティニーを旗印に西部へ領土拡大を進めるアメリカは米墨戦争で勝利をおさめ、ニューメキシコその他を併合する。勝利に酔ったアメリカ人はタオスのプエブロたちに優越感まるだしの態度をとり、強い反感を買う。キーニー将軍の命を受けてサンタ・フェの知事とナったチャールズ・ベントは何者かによって暗殺され、これがきっかけでアメリカ人対プエブロの戦いが始まる。世に言う「タオス・プエブロの乱」である。この時プエブロの布教に携わっていたマルチネス神父はベントの横暴なやりかたと対立していたことから蜂起の扇動者とみなされ、プエブロたちとともに処刑され、彼らが最後にたてこもった教会も反乱のあとすぐに壊されてしまった。サニーは歴史の本で仕入れた知識をもとに夢の時代や舞台を丁寧に設定していく。それが功を奏して彼は町の様子を手に取るように夢に見る。例によってこの争いに巻きこまれたカップルがいた。サニーの先祖にあたるエピファナとリサンドロである。二人の住む町は勝利者であるアメリカ兵に支配されてしまい、婚礼は延期になってしまった。アメリカ兵を怖れて家にこもるエピファナにレイヴァンの魔の手が伸びる。先程までの順調さとはうってかわって夢が思い通りにならないことに焦りを感じるサニー。レイヴァンはサニーに「この女はもらった」と言い残して去っていく。
12
アルバカーキに戻った二人はリタの店で食事をとる。もうじき冬至がくる。その四日後はクリスマスだ。レイヴァンは一年中でもっとも太陽の力が弱まる冬至のあと、光の申し子であるキリストが降誕するという再生のサイクルを嫌い、聖処女である少女たちをさらっていくのだ、とロレンツァは推理する。夢と現実の誘拐に何らかの関連があるとしたら、再びどこかで降誕劇が行なわれたときに誘拐があるはずだ。三人は事前にくいとめようとクリスマスのバリーオ(チカノ人街)へでかける。そこで彼らは聖母を演じるはずだった少女カルメンが急病で家にこもっていることを知る。リタたちとはぐれてしまったサニーはとりあえずカルメンに会いに彼女の家を訪ねる。が、そこで待ち受けていたレイヴァンの手下たちによって催眠剤を注射され、つかまってしまう。
13〜14
サニーはバンでどこかに運ばれていくのを感じていた。彼を出迎えたのはレイヴァンとチェルネンコ。どうやらサンディア研究所らしい。チェルネンコの背後には1945年に製造されたのとそっくりな旧式の核爆弾がある。これが爆発すると、チェルネンコが祖国で仕掛けてきたコンピューターが誤作動し、攻撃を受けたと判断して報復攻撃を開始することになっていた。チェルネンコはこの仕掛けを使ってアメリカを脅迫し、大金をせしめて南米に逃れるつもりだった。が、レイヴァンの目的は違っていた。彼が目指しているのはあくまで完全な破壊だ。サニーは過去に何度も死に、不死の魂のためになんどもこのニューメキシコに転生してきた。彼はいつも時代の変革期に生まれ、そこで新しい時代の創造にかかわる。一方レイヴァンは平和を憎み、ニューメキシコ中に災いをもたらそうと考えている。サニーは萎えた足で辛うじて立ちあがり、二人を阻止しようとするが、再び注射を射たれてしまう。レイヴァンはサニーを眠らせ、夢を通じて彼の過去に入りこもうとしていた。が、その時、リタたちの通報によって警察が駆けつける。レイヴァンはもはや用のないチェルネンコを殺すと、研究所の地下道から逃げていく。サニーはレイヴァンを追うかわりに夢の世界で彼と戦おうと眠りにおちる。
 そこは1870年代のニューメキシコ。登場するのは有名なビリー・ザ・キッドだ。サニーは自分自身をビリーの友人に設定することで夢の世界に入りこむ。
15〜16
夢の世界に入ったサニーを助けるためにドン・エリセオがやってくる。夢の中でビリーの妻になるローザはサニーの先祖だ。サニーは彼女をレイヴァンから守るためにコヨーテを呼ぶ。彼はサニーの友人のカウボーイとしてエルフェゴ・バーカーのコルトを持って登場する。ビリーの首にはすでに500ドル以上の賞金がかっている。レイヴァンはビリーを仕留めたとして歴史に名が残るギャレット保安官に接近し、彼をそそのかしてビリーを殺させる。目の前で夫が殺され悲しみに沈むローザにレイヴァンが接近する。「今だ、行け」とコヨーテに背中をおされて、サニーがついに自分の夢に登場する。サニーはエルフェゴのコルトでレイヴァンに立ち向かう。レイヴァンはサニーの胸めがけて銃弾を撃ちこむが、わずかに衝撃でバランスを崩すだけで、その胸からはひとすじの血も流れてはこない。レイヴァンはサニーの力にしばし呆然とし、ついに自分の夢を操る力を得た彼に捨て台詞を残して立ち去る。彼を救ったのはかつてレイヴァンをロレンツァの銃弾から救ったのと同じ胸に下げたメダルだった。実はサニーの曾祖父エルフェゴの不死身の伝説はこの時のサニーの活躍がもとになったものだった。

第三部 シャーマンの導き
17〜18
目覚めたサニーはドン・エリセオと夢や神話について語りあう。昔話によればワタリガラスとコヨーテはもとは敵同士ではなく、仲のよい兄弟だった。その頃アメリカ大陸は巨大な亀で、人間はその体内でまどろむ平和な存在だった。ところがその中に邪な心を持った魔術師がいて人間を脅かしたために、人間はコヨーテとワタリガラスとフクロウの力を借りて外の世界にでてきたのだった。運の悪いことにその時一緒に魔術師も外にでてしまい、彼は人間たちと協力して世界を作り上げるコヨーテとワタリガラスに腹を立てて二人をわなにかけ仲違いさせてしまった、というわけだ。だから二人はともに人間界を豊かにする自然の力の象徴であり、一枚のコインの裏表のような存在なのだ、とドン・エリセオは語る。
冬至が近づいていた。一年で最も太陽の力が弱まる時をねらってレイヴァンは世界を破壊する行動を開始するに違いない。その時パイスからサンディア研究所からエボラ菌が見つかったという知らせが入る。サニーは自分が再三にわたって注射をうけたことを思いだし、背筋が凍る思いをする。
19〜20
 幸いにして病院の検査結果は陰性だった。ドラッグ、核、そして病原菌。サニーはこれらを使ってレイヴァンが市民の間に不信感を根づかせ、アメリカの秩序を徹底的に覆そうとしていることを確信する。今回の彼の協力者であるエリックとドイル、テロ集団アヴェンジャーも同じ目的だ。彼らの陰謀を止めるにはまず手の内を読まねばならない。サニーは彼らの情報網を把握しようと考え、偶然知り合った高校生サイバーの助けを借りてコンピューターにアクセスを開始する。
サイバーというニックネームの少年はかつてサンディア研究所から忽然と消えた父親の消息を求めてコンピューターのハッカー行為を犯していた。偶然にも図書館のコンピューターはサンディアの払い下げで、それを使っていたサイバーはその中にハード・ドライブにアヴェンジャーという消し忘れのファイルを見つけたのである。彼は架空のIDナンバーを偽造することで研究所の関係者になりすまし、回線に侵入して情報を入手していた。サニーは彼にレイヴァンとエリック、そして核爆弾についての情報を探し出すように依頼する。
21
サニーはレイヴァンとの対決の舞台設定に取り組む。オニャーテは遠征中の娯楽として芝居のうまい兵士や宣教師に様々な戯曲を演じさせていたという。そこで演じられる世界はスペインを追われたムーア人やユダヤ人の影響を強く受けたものだった。つまりチカノの文化にはアフリカやユダヤからも影響を受けていることになる。にもかかわらず、こうしたいわば敗者の存在は文字となった歴史からは滅多に浮かびあがってこない。所詮歴史は語り部次第なのだ。夢を操ることで過去を捏造してしまえるのも無理はない。物思いに耽るサニーにサイバーから連絡が入る。エリックはモナという市民武装グループに所属する女性と深い関係にあるらしい。また、彼はレイヴァンが一年前にジョン・ワージーという偽名でロス・アラモスに勤め、エリックの秘書的な仕事をしていたという情報をつかんだ。レイヴァンがシア・カルトを結成して反核テロを起こそうとしていたのはその年の夏だ。アヴェンジャーとエリック、ドイル、レイヴァンの陰謀は一年も前から念入りに準備されていたことがこれでわかった。サイバーはさらに奇妙なことをサニーに伝える。ワージーとしてのレイヴァンの経歴を調べると、誘拐された少女たちの名前が浮かびあがってきたというのだ。1992年コンスエロと結婚。半年後に死別。カタリナと再婚。どうやらこれらの経歴はレイヴァンが最近になってサンディアの回線にアクセスし、時間を遡って偽造したものらしい。レイヴァンは過去を使ったゲームを楽しんでいるのだ。
22〜23
手がかりを求めてモナの家に侵入したサニーはあっけなく彼女とエリックに見つかり、開き直ってレイヴァンの件について問いただす。が、レイヴァンの陰謀を知って解雇したのだというエリックのもっともらしいいいわけの前に反駁できず、追い返されてしまう。行き詰まったサニーに追い打ちをかけるようにショックなニュースが待っていた。リタが流産したという。彼は彼女の妊娠すら知らされてはいなかった。負担をかけまいとリタが周囲に箝口令をしいていたのだ。
病院にリタを見舞ったサニーは彼女の口から不可思議な夢の話を聞かされる。彼女は夢の中で出産を間近に控えたナバホ族の女になっていた。そこにキット・カーソンというアメリカ人がやってきて、彼らをボスケ・レトンド居留地に強制移住させる。それは1864年に実際に起きた悲劇だった。妊娠中の女たちは皆ストレスと寒さと飢えで血を流し、次々に死んでいった。リタは自分に流れるナバホの血が見させた夢だという。が、サニーは自分とレイヴァンの戦いに彼女を巻きこんでしまったことを知る。彼はリタの夢を見て、彼女の過去を作り替え、赤ん坊の命を救おうとする。が、そこに現れたのは曾祖父のエルフェゴだった。エルフェゴはサニーにレイヴァンの後を追って次の夢の世界に入れ、と誘う。
サニーは曾祖父とともにメキシコ革命の英雄パンチョ・ビリャの妻ソルダードを救うために1916年の国境地帯コロンバスに向かう。先住民のアウル・ウーマン、スペイン人カリダード、メキシコ人エピファナ。あとはチカノの血をもつ女を誘拐すればゲームは終わる。ローザの誘拐に失敗したレイヴァンは新たな標的としてソルダードに目をつけたのだ。駆けつけたサニーにレイヴァンが勝ち誇って「おまえの血筋は絶えた」と宣言する。目覚めたサニーは現世でも最後の誘拐が起きることを予感する。
24〜25
目覚めたサニーにサイバーから連絡が入る。しかしその様子がおかしい。彼は父親の情報がつかめたことに興奮している。ハッカー行為をしているうちにロズウェルという政府のトップ・シークレットのファイルに行き当たったという。そこには正気の沙汰とは思えない宇宙人の人体実験の物語が描かれていた。サイバーによれば墜落したUFOの中に異星人たちを発見したアヴェンジャーが彼らを連れ帰り、その特殊能力を軍事利用しようと人体実験をしているという。その秘密を知ったために消された人々の中に父親がいる、とサイバーは考えていた。彼にはサニーの依頼などもうどうでもよくなっていた。ハッカー行為に気づいたエリックはそのうちサイバーの存在をネット上で探しだすだろう。サニーはサイバーにこの危険なゲームから降りるように忠告する。サイバーは最後にレイヴァンが通信に用いていたコードネームは「キモサビ」だ、と告げて連絡を絶つ。サニーはその夜キモ・シアターでキリストの降誕劇が上演されることを知り、ロレンツァとともに劇場へ急ぐ。主演女優のセレステをさらって黒いバンで逃走するレイヴァンを追うロレンツァの車はスリップを起こし、車は用水路に転落、二人は車の外に投げだされる。が、偶然にもこの事故で頭を打ったショックが効を奏し、サニーの足のマヒは回復する。
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九死に一生を得たサニーはロレンツァとドン・エリセオの力を借りてレイヴァンとの最終対決をすべく夢の世界に入る。ドン・エリセオはシャーマンの姿で現れると、チカにサニーの供を命じる。犬は昔から鳥を追うために人間に飼われていた。ドン・エリセオがチカをサニーに与えたのは単なる心の慰めのためではなかったのだ。そして手に持っていた「夢の楯」をサニーに与える。それはジュニパーの枝を軸に細い鹿の革ひもを蜘蛛の巣状に張った完全な円形の大きな楯で、虹の色に染め上げてあった。革ひもの中央には丸い穴があいていて、そこから悪夢を吸い取ることができるのだとドン・エリセオはサニーに説明する。これからサニーが赴く世界は、今までサニーを守ってくれた銃やコヨーテの力はおろか、ナバホ族がビジョンを呼ぶのに用いるペヨーテの力すら及ばない遠く深遠な世界である。レイヴァンはそこでサニーが来るのを待ちかまえている。命を懸けた戦いが始まるのだ。
27
ドン・エリセオのドラムの音につれてサニーは眠りの世界に落ちていく。サニーの目の前に輝く夢の世界の扉が現れる。ドン・エリセオはサニーを導くようにその入り口で立っている。サニーはチカを従え、「夢の楯」を戦士のように掲げる。ロレンツァが「夢の暦」の中で薬草を焚いている。「夢の暦」がゆっくり回りだし、描かれた文様が動きだす。ドン・エリセオはその文様の意味をサニーに解き明かしていく。最初の文様は世界の創世を描いたものだ。サニーは世界中の遺跡が走馬燈のように「夢の暦」の中から流れだしていくのを見る。過去に平和を夢見た人々の夢の記憶だ。サニーにはそれが遠くの光景ではなく、自分を取り巻く流れのように感じる。自分はまさに夢の中にいる。サニーは喜びと自信があふれてくるのを感じる。俺が夢だ、夢そのものなのだ。やがて「夢の暦」の中から太陽が姿を見せる。と、「夢の暦」の動きが止まり、太陽の光が聖なる四方向を照らす。それに応えるようにサニーの胸のメダルが輝き、輝く扉からサニーが夢に見た先祖たちが姿を現す。「夢の世界に入れ」というドン・エリセオの声がして、サニーは扉に足を踏み入れる。するとそこにさらわれた四人の少女たちの姿があった。「わなだ!」というドン・エリセオの声も間に合わず、サニーはレイヴァンの夢の世界に絡め取られてしまう。「覚悟しろ!」と刀を振りかざすレイヴァンの前にドン・エリセオが立ちふさがる。レイヴァンの刀はその胸を深々と刺し貫いた。
 レイヴァンは四人の娘と「祖母」たち、そして死んでしまったサニーの子供の輝く小さな魂の前に勝ち誇って立ちはだかっていた。頼みの綱を奪われ、わなに落ちたサニーにレイヴァンは取り引きしようと言いだす。とらわれの「祖母」たちを自分が殺せばサニーはもはや存在しなくなる。もし四人の少女たちをあきらめ、メダルを返せば命だけは助けてやろう。レイヴァンは少女たちに混乱と破壊の力を持った自分の子供を産ませようと考えているのだ。言うことを聞けば命だけは助けてやる。元の世界に帰ってあの魔女とよろしくやったらどうだ。俺の女はロレンツァじゃない、というサニーにレイヴァンは、でもおまえは自分の血を引く子供が欲しいだろう、リタの子供がどうなったのか思いだしてみろ、と嘲笑う。幼い魂を奪いリタを傷つけたレイヴァンにサニーの怒りが爆発する。彼は必死に「夢の楯」でレイヴァンに立ちむかう。やや形勢がレイヴァンに優位に思えた時、彼の目をまぶしい光が射る。それはサニーの子供の魂の光だった。汚れのない光にさらされて苦しむレイヴァンをサニーの「夢の楯」が襲いかかる。レイヴァンは楯の中央の穴に吸い込まれて姿を消した。サニーは四人の少女たちと「祖母」たちを解放し、ドン・エリセオの亡骸を抱えて元の世界に帰る。
28〜29
夢から醒めたサニーはロレンツァの姿を見る。ドン・エリセオは死んだ。チカも戦いで片目を傷つけた。ようやく苦しい戦いは終わったのだ。彼のもとに警察署長のガルシアから、行方不明だった少女たちがレイヴァンの隠れ家から救出されたというニュースが届く。同時に彼はレイヴァンらしき遺体がサンディア研究所で見つかったという知らせを聞く。ガルシアの話によればレイヴァンはプルトニウムを盗みだそうとして誤って実験用の機械に足を踏み入れ、レーザー光線に焼かれたという。焼けこげた遺体はもはや顔の判別もつかないが、残された衣類と黒い羽根からレイヴァンと断定されたらしい。肝心のプルトニウムもエボラ菌も実は行方不明のままだ。しかしエリックとドイルは自分たちの陰謀を隠すために、素知らぬ顔でプルトニウム強奪犯が死亡したとの記者会見をするだろう。サイバーは身の危険を感じてハッカー行為から手を引いたという。とりあえずサニーは胸をなでおろす。
 入院中のリタをサニーは自分の足で見舞いに行く。歩けるようになったサニーを見てリタは喜ぶ。退院したら結婚式だ、というサニーにリタはそれはできないと答える。流産の結果彼女は子供を産めない体になってしまったらしい。レイヴァンが言っていたのはこのことなのだろうか。しかしサニーはリタに自分に必要なのは愛する女性だ。子供が欲しければ養子をもらえばいい。一緒に穏やかな生活を送ろう、と語る。それは希望にあふれる新しい夢だった。冬至は終わり、太陽が新しい力を取り戻し始めていた。

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 last updated 2004/3/8