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『ホエール・トーク』
copyright © 2004 Shingo Ikeda

クリス・クラッチャー著 金原瑞人・西田登訳 青山出版社
四六判(19cm X 13cm) 上製本 288ページ 1,680円 ISBN: 4-899-98050-7
WHALE TALK by Chris Crutcher
tlanslated by Mizuhito Kanehara and Noboru Nishida
AOYAMA Publishing Co. Ltd.

訳者あとがき(translater's afterword)

 圧倒的な力を持つ作品というものがある。今まで訳したヤングアダルト向けの本でいえば、『豚の死なない日』がその最も良い例だろう。読み終えたあと、一言も声がでないくらい心の揺さぶられる小説といってもいい。クリス・クラッチャーの『ホエール・トーク』も、まさにそんな一冊である。
 これまでずいぶんいろんな本を訳してきた。どれも好きだし、それぞれに思い入れがある。が、また、それぞれに向き不向きがある。ハードなファンタジーが好きな人に薦めたい本もあれば、一風変わったリアリズム小説が好きな人に薦めたい本も、エスニック文学の好きな人に薦めたい現代小説もある。
 しかし相手の好みなどきくまでもなく、とにかく読んでみてくれと突きつけたくなる本というのもごくまれにある。
 主人公のT・Jは、IQ驚異的、表現力モンスター級、身長百九十センチ、バスケットが得意で、百メートルのタイムは十秒四。ただ黒人と日系と白人の混血で、ドラッグに溺れた母親に捨てられ、白人夫婦に引き取られた。そしてまわりには人種差別主義者がライフルを片手にのし歩いている。
 T・Jの腹のなかには幼い頃から、怒りと痛みとが渦巻いていて、ことあるごとにそれが噴出する。自宅謹慎の経験は数え切れない。小学校で水泳を始めるまで、教師の半数が薬物治療を受けさせたがり、もう半数は感化院に入れたがった。
 入学したカッター高校はスポーツが異様に幅を利かせていたが、T・Jは高校のスポーツクラブには絶対入らないと心に決めていた。人に指図されるのもいやだし、スポーツバカといっしょになにかをするのもいやだったからだ。
 そんなT・Jが、ある事件をきっかけに、水泳チームを作ることになる。しかしカッター高にはプールもなく、集めてきた部員は、脳障害のあるクリス、体重百三十キロのサイモン、平凡すぎるほど平凡なジャッキー、いつも殺気だった目で相手をにらみつけるアンディ(右脚は義足)など、ひと癖もふた癖もあるくせに、ろくに泳ぎを知らない連中ばかりだ。コーチはシメット先生と、オールナイトのフィットネスクラブを家代わりにしているオリヴァー。立ちはだかるのは、対戦する高校の水泳チームではない。カッター高の花形フットボール選手バーバーや、その先輩にあたる卒業生リッチなど、暴力的な差別主義者たちだ。
 こうしてスーパーマンT・J率いる奇人変人でこぼこチームは前途多難な旅に出る。
 この奇妙な青春小説は、さらに様々な人々を巻きこんでいく。T・Jの養父(心に大きな傷を負って以来、バイクの修理と子ども相手のボランティアばかりしている)、養母(児童虐待事件を扱っている弁護士)、人種差別と幼児虐待で悪名高いリッチ、リッチから必死に逃れようとする妻とその娘。
 テーマは重いが、物語は非常にテンポ良く、読み出すととまらない。物騒なジャングルを走り抜けるジープに乗せられたような、スリルとスピード感に翻弄されているうちに最後まで行き着いてしまう。
 これほど読み応えのあるユニークな青春小説にはめったに出会えない。「奇跡」にも似た作品といっていい。『豚の死なない日』と同じように多くの人々に読まれることを祈っている。

 著者のクリス・クラッチャーは寡作ながら、もこれまでに刊行された本書を含む七冊すべてがALA(アメリカ図書館協会)のヤングアダルト・ベストブックに選ばれており、ほかにも多くの賞を受賞している。スポーツがらみの作品が多いが、なにより若者を見つめる目の鋭さと確かさと優しさが特徴的だ。現在、『ホエール・トーク』にも出てくるワシントン州スポーカンに住んでいる。

 なお、最後になりましたが、編集の津田留美子さん、原文とのつきあわせをしてくださった柳田利枝さんに心からの感謝を!

 二〇〇四年一月 金原瑞人(January 2004 Mizuhito Kanehara)

<クリス・クラッチャー作品リスト(Book List of Chris Crutcher)>

長編(full-length books)
 Running Loose 1983
 Stotan! 1986
 The Crazy Horse Electric Game 1987
 Chinese Handcuffs 1989
 Staying Fat for Sarah Byrnes 1993
 Ironman 1995
 Whale Talk 2001(本書)

短編(short stories)
 Athletic Shorts: six short stories 1991

自伝(autobiography)
 King of the Mild Frontier 2003

※クリス・クラッチャーのオフィシャル・ホームページ(Official Homepage of Chris Crutcher)
※クリス・クラッチャーが日本語訳を紹介しているページ(WHALE TALK in Japan 金原の写真とコメント入り)
Mr. Chris Crutcher
クリス・クラッチャーの写真
copyright © Kelly Milner
Mr. Chris Crutcher
クリス・クラッチャーの写真
copyright © Chase Olivieri
※クリス・クラッチャーさんの許可を得て写真を掲載しています。

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 last updated 2004/5/26