管理者:金原瑞人

【題名】AK
【仮題】AK
【版元/出版年】Dell Publishing  a division of Bantam Doubleday Dell Publishing Group, Inc/1990年
【頁数】229頁
【著者】ピーター・ディッキンソン(Peter Dickinson)
【受賞歴】
1977年 The Blue Hawk『青い鷹』でガーディアン賞受賞
1979年 Tulku『タルク』でカーネギー賞とウイットブレッド児童文学賞受賞
1980年 City of Gold『聖書伝説物語 楽園追放から黄金の都陥落まで』でカーネギー賞受賞
1990年 本作、AKでウィットブレッド賞受賞
1989年 Eva『エヴァが目ざめるとき』でボストングローブ・ホーンブック賞受賞
1998年 The Kin『血族の物語』でカーネギー賞にノミネート
2002年 The Ropemaker『ザ・ロープメイカー 伝説を継ぐ者』でマイケル・L・プリンツ賞受賞
その他、多数。

【概要】
 舞台はアフリカ大陸の国、ナガラ。主人公の少年ポールは、物心ついた頃から兵士だった。自分の本当の名前も、家族も知らない。彼は国の腐敗した政治に対抗し、3年間少年兵士として戦ってきた。そんな少年の成長や仲間達との友情、アフリカの厳しい現実が描かれる。

【おもな登場人物】
ポール(Paul)……主人公。孤児の少年兵士。
フランシス(Francis)……少年兵士としてポールと同じ部隊にいた幼い男の子。
カシュカ(Kashka)……バローバ出身の男の子。ポールより2つ年上。肌は黒い。
ジリ(Jilli)……フル出身の女の子。肌の色は浅く、ポールより若干年下。
マダム・ガー(Madam Ga)……ジリの遠い親戚の女性で、男勝りのリーダー的存在。
アルコ・マラー二(Alco Malani)……ナガラ解放軍のリーダー。悪政を行うボヨ政権に対抗して戦い、指導者となるが、暗殺されてしまう。
マイケル・カゴミ(Michael Kagomi)……ポールのいた部隊のリーダー。ポールのことを実の息子のように思って、面倒を見てくれる。内戦が終わってからは、マラーニの信頼を受け、側近として働く。

【あらすじ】
 ポールは少年兵士だ。自分用のAKという自動小銃を持っている。軽く、分解するのも簡単で、肩掛けに隠すようにして小脇に抱えて持ち運ぶことができる。死んだ敵から奪い取ったものだった。この3年間、これを使って人を殺したことはなかったが、この銃はいつもポールと一緒だった。AKは彼のヒーローだった。
 物心ついたときにはすでにナガの部隊にいたため、自分の名前も家族のことも覚えていない。部隊では、大人の兵士一名に少年がひとり付き、常にペアで行動する。ポールというのは、この部隊に入ってから付けられた名前だ。リーダーのマイケルとの出会いのきっかけは、腹ぺこだったポールが粥を盗んだところを見つけられたことだった。
 貧しいアフリカの国“ナガラ”では、内戦が続いていた。もともとは、ナガ、フル、バローバ、ゴグという4つの部族の集まりで、それぞれ独自の習慣や言語を持っていた。70年間イギリスに支配されたのち、ナガラという名がつけられ民主主義国家となったのだが、その後も悪政を続けていたボヨ政権を倒したのが、アルコ・マラー二という人物だった。
 このあと、どうなるのだろう? ポールが尊敬するリーダーのマイケルは、以前からマラーニの信頼を受けていたため、おそらく彼のところで働くことになるだろうと話した。また、国立公園(サファリパークのようなもの)を作って観光客を呼ぶという将来の夢も語った。マイケルは、お前達がこれからの世の中を担っていくのだから学校へ行って勉強するんだぞと言った。また、彼はこんなことも言った。「これからは、俺が父親でお前は俺の息子だ。この先結婚して自分の子どもができたとしても、お前は俺の最初の息子だ。俺にとって、戦争は最初の妻みたいなもの。そいつはとんでもない残酷な女で、息子をひとり産んで死んでいった。別れられてせいせいした」
 ポールは思った。戦争はぼくの母親だ。母さんは魔女で、人を食う恐ろしい悪魔だった。だけれ、ぼくを育ててくれた。ぼくの母さんへの愛は誰にも責められない……。
 戦争が終わったあとは、銃を持ち歩くことは禁じられることになる。ポールは銃に油を差して布で包むと、つるはしで穴を掘り、こっそり土に埋めた。そして泣いた。
 学校第一号はキャンプ裏に作られた。学校といっても、むき出しの地面にテントを立てただけのものだが。創立式典には、マラーニもやってきて、パレードが行われた。
 ポールはフルの学校に入ることになった。そこには、様々な地域の少年少女たちが集まってきていた。ジリはフル出身の少女、カシュカはバローバ出身の少年だった。フランシスはポールと同じ部隊にいた年下の男の子だ。子ども達は、英語をはじめ、各部族の言葉や、数学、歴史などを学んだ。マイケルはマラーニの側近となって立派な建物で働くようになってからも、週に一度はポールのいるキャンプを訪ねにきてくれた。
 帰る家がないにもかかわらず、ポールはホームシックになっていた。戦争が恋しかった。
 そこに、マラー二大佐が暗殺されたとの知らせが入った。車に爆弾が仕掛けられていたのだという。マイケルはどうなったのだろう? ポールはマイケルのことが気がかりだった。また、マイケルの息子だということで、やつらはポールを人質につかまえにくるかもしれない。
 そこで、ポール、ジリ、カシュカ、フランシスの4人は、モーターボートを使って首都ダンゴウム目指して沼を渡った。途中、フランシスが病気になった。
 友達に会いに行くと言うカシュカと別れたあと、ポールはジリとフランシスと一緒に野宿を繰り返しながら、さらに南へ向かった。そしてある日、3人はある男女に出会った。ジョエルとソフィアと名乗るふたりはダンゴウムから来たジャーナリストで、内戦が人々や野生動物にもたらした余波についてテレビ特集を組むことになっており、その取材にきているのだと言った。また、マイケル・カゴミという人物が牢獄に入れられていると聞いたという。
 ジョエル達はフランシスを、ペアを組んでいたパップのもとへ連れて行ってくれると言った。ポールは、マイケルを牢獄から助け出すためにダンゴウムへ行くことにした。
 ダンゴウムへ行く前に、ポールはナガのキャンプがあった場所に戻った。銃を埋めておいた場所を見つけようとしたが、1年前に覚えておいた歩数では合わなかった。成長して歩幅が大きくなっていたのだ。ポールは銃を掘り出すと、元どおりに組み立てた。
 ポールとジリは列車に飛び乗り、ダンゴウムへ向かった。実はポールがダンゴウムの地にやってくるのは2度目だった。以前、学校が休みのときにマイケルにリムジンで連れてきてもらったことがあったからだ。
 そこでふたりは、ジリの遠い親戚の女性に出会うことになる。ジリがポール達とともに家を離れたあと、兵士たちがやってきて家族を惨殺したのだと、その女性は言った。ここでも、何の罪もない人々が命を奪われていたのだ。ジリはこのときから、自分もポールと同じ戦士として生きていこうと決めた。
 ポールはマイケルを探しに、彼からもらっていたカーゾン通りの住所を頼りに、ひとりで宮殿の方向にむかった。紫のベレー帽をかぶった兵隊が乗った軽トラック、ボンネットに旗を立てた黒のリムジン。トラックの後ろに死体がくくり付けられ、引きずり回されているのも見かけた。その犠牲者の服には伍長の印が付いていた。ポールは前にも、政府からやってきた兵士らが適当に選んだ人間を“処刑”しているところを見たことがあった。
 住所にたどり着くと、そこはバーのような店だった。ドアは破られ、板が打ち付けられていた。近くに一台の車が止まっていて、スーツを着た男が見張りについていた。どっちみち、子どもひとりではどうすることもできない。協力してくれる仲間を、マラーニを支持していた人達を集める必要がある。
 銃を人目に触れさせないという条件で、ポールはジリの親戚のところに置いてもらえることになった。口に出さなくても、ジリの悲しみや寂しさは見て取れた。周りの人が殺されていった中で生き残った者が感じる後ろめたい気持ちは、ポールにも分かった。
 そのころ、デスシンガーズと呼ばれる一味が村をうろついていた。彼らは水を使う権利を独占して、人々から金を取ろうとしていた。
 屋台の立ち並ぶ村の市場に、ひとりのたくましい女性がいた。絨毯織りのその女性はみんなからマダム・ガーと呼ばれていて、村のリーダー的存在だった。彼女は、私達から搾取しようとするデスシンガーズに対抗しよう、立ち向かおう、と人々に呼びかけた。
 ある日、数十人のデスシンガーズ達が警棒を手に村を襲ってきた。屋台が次々と破壊されていく。だが、彼らは兵士でもなければ、特別な訓練を受けているわけでもない、ただの酔っぱらったチンピラの集団だった。女達も斧や刃物を持ち出して戦い、ポールも敵に銃を向けた。
 彼らが退散していったあとには5人のデスシンガーズの遺体が残った。けが人はいたものの、市場の人々の中に死者は出なかったようだ。マダム・ガーは、彼らはさらに大人数で戻ってくるはずだから、各部族のギャングたちを味方に付けて、本格的に彼らの攻撃に備えるべきだと言った。
 額にサソリのマークをつけた男達がトラックに乗ってやってきた。バローバ出身のギャング、スコーピオンズだ。ポールは彼らに近づき、昨晩のできごととマイケル・カゴミという人物を救出しようとしていることを話した。彼らのリーダーはダス少佐といった。彼の従兄弟らもマイケルと一緒に捉えられているという。
 そしてふたたびデスシンガーズ達がやってきた。彼らは屋台で酒を飲んだ。以前、マイケルにもらった住所を訪ねたときに見たスーツ姿の男もいた。あの男はデスシンガーズのリーダーだったのだ。彼が、マイケルを捉えている犯人なのだ。
 ポールは思った。このときのために、自分は地面に埋めておいた銃を掘り出したんだ。そしてそのために、自分ははるばる大変な思いをして沼を渡り、鉄道を越えてここまでやってきた。ポールはスーツ姿の男の後ろから歩み寄ると、銃を突きつけ、ダス少佐のところに連行した。
 やがて敵は退散した。屋台は燃やされ、市場はめちゃめちゃで、何人もの犠牲者が出たが、みんなは自分たちの勝利を喜んだ。ところがジリがどこにも見当たらない。あちこちを聞いて回り、やっと見つけると、ジリは顔中血だらけで意識がなかった。彼女は病院に運ばれた。
 市場に戻ってみると、ヨーロッパ人の取材陣が集まって、マダム・ガーにインタビューをしていた。権力を握っているバッソ・イスカーニはトラックに乗った兵士を送り込んできたが、住民達は兵士たちを追い返した。人々は歓喜に包まれ、「マイケル・カゴミを解放しろ」と書いた旗を掲げてパレードを始めた。マダム・ガーは、明日にもバッソ・イスカーニの宮殿に乗り込んで、自分たちの権利を主張しようと言った。
 その晩、ポールはふたたび銃を土の中に埋めた。
 人々は旗を掲げ、マダム・ガーを先頭に宮殿に向かって行進した。テレビの取材チームのトラックもついて行く。野次を飛ばし、スローガンを叫びながら、戦車や銃を構える兵士が並んだ宮殿を取り囲む。マダム・ガーは中の者と交渉を始めた。炎天下で倒れる人が続出したが、それでもポールは抗議の声をあげ続けた。
 やがて、むこうの方から、大きな旗をひるがえしながら大軍団がやってきた。スコーピオンズが皆に声をかけてくれたのだろうか。イスカーニがやったと見せかけて、水の元栓をすべて止めたのだろうか。いや、それだけではないだろう。それだけで、村中どころか国中の人々がこんな風に集まって来ることがあるだろうか。戦争の間、人々は皆、平和と希望と自由を求めていたのだ。
 病院の看護婦に約束していた時間には遅れてしまったが、人ごみを必死の思いですり抜け、ポールはジリの元に向かった。まだ意識はなかったものの、彼女の手を握ると反応があった。
 大佐とマダム・ガーとの間で交渉が進んでいることが皆に伝えられた。国民の要望に対し前向きの検討が始まったとのことだ。
 病院にいながらも、みんなが喜びと期待に湧いている様子が伝わってくる。ポールが仲間のところへ戻ろうとしたとき、ジリがうめいて、何かつぶやいた。ポールは、すぐにでもマイケルのいる場所へ行きたかった。自分もその場にいたかった。しかし、今、自分を必要としているのはジリだ。もう少しだけ、彼女のそばにいよう……。知らないうちにポールは眠ってしまっていた。
 ポールが目を覚ますと、マイケルがいた。釈放されたマイケルは、自分を助け出そうと必死になっていた少年が病院に行っていると聞いて、やってきたのだという。マイケルは片腕を負傷していたが、無事だった。ポールはこれまでのいきさつをマイケルに話して聞かせた。
 マイケルは言った。「ナガラの国はたくさんの犠牲を払うこととなった。おまえの友達も、その犠牲のひとつになってしまった」
「だけど、その犠牲は無駄じゃなかったと思う。ジリだって、きっとそう言うよ」
「この戦いが意味のあるものだったか、その答えが出るのには、あと20年かかるだろうな」

20年後??
 ある晴れた空の下、マイケルの夢だった国立公園の設立記念式典が行われていた。副総理もスピーチをするためにヘリコプターでやってきた。まだ若い副総理というのは、フランシスだ。公園の管理人のポールは、結婚して2児の父となっていた。石碑にはマイケル・カゴミの名と「自由・正義・愛」の言葉が4つの言語で刻まれている。残念ながら、マイケルは捉えられていた間の重労働の後遺症とこれまでの過労のせいで、今は亡き人となってしまった。ちなみに、バンコクで映画監督として活躍しているジリとは今でも連絡を取り合っていて、来月には里帰りしてくると聞いている。
 フランシスは子ども達の前で、この20年間のナガラ国の歩みについて話し、将来を担う子ども達に願いを託した。この公園の設立はマイケル・カゴミの長年の夢であったということも。
 記念碑の下の地面には、油をさして布にくるまれた、斜めに亀裂の入ったAKが眠っている。百年後に誰かが掘り起こして組み立てたとしても、きっと使えるだろう。そんな日は来ないだろうけれど……。

あるいは、こうかもしれない??
 ナガラでは依然として内戦が続いていた。停戦後、国が立ち直りかけたかにみえたものの、またしても新たな反乱が起き、経済の崩壊、飢饉に、暴動といった状況にみまわれていた。
 ポールはひとりの少年と一緒に行動していた。ふと、こちらをじっと見ている子どもに気付き、立ち止まる。肩掛けの下に隠れた銃に手をかけようとしたその瞬間、ポールは倒れた。胸を撃ち抜かれて、即死だった。ポールに付き添っていた少年は走り去っていった。
 ポールを撃ったのは、茂みに身を隠していた別の少年だった。少年達と行動を供にしていた大人ふたりは、それがポール・カゴミだと知って動揺した。少年は大人達に言われた通りに、ポールの遺体を茂みに転がし、土をかけて血痕を隠した。そして、ふと銃を目に留めた。かなり古く、深い亀裂が入っているが、持ち歩いていたということは、まだ使えるのだろう。AKはそう簡単に壊れない。少年はその銃を自分のものにしたいと思った。そろそろ自分の銃を持ってもいいはずだ。

【感想】
 いかにも、ディッキンソンらしい作品。もちろんある種のメッセージは流れているが、なにより、ひりひりするような戦争の緊張感、少年の熱い気持ちがストレートに伝わってくる。そして、この軽快なリズム、というか文体。
なんとなくロバート・コーミアの『ぼくが死んだ朝』を思わせる作品。


last updated 2006/9/30